クリスタのメッセージ
アメリカ・ニューヨークで開かれる核軍縮の道筋を話し合うNPT再検討会議に、「世界核不拡散推進団体連絡協議会」はラクサム人の5人を招待することを決めた。また、サイドイベントの中でラクサム人の被爆2世の体験を伝えたほか、本会議のNGOセッションではウィン博士がメッセージを発言した。
もちろんこのサイドイベントには、サリームメンバーもサポートとして参加、そして、特別参加として、”スーパー・キャット”ことジミーもヘレンとともに顔を出し、愛嬌をふりまいていた。今回ジミーはサングラスではなく、丸ぶち透明メガネであった。機能はサングラスと同じである。さらに世界中の1億人以上の人間が、このイベントにVRで参加していた。
サイドイベントでは異星人、スカイ・フォー、ファンタスティック・スリー、スーパーツインズ、スーパー・キャットという、普通の地球人から見たら特別な存在に映っている彼らであるが、あえてスーパーヒーローの日常を暴露することで、より身近に感じられるような配慮がなされていた。日常生活の暴露といっても、有事でないときの本業以外のプライベートに関してだ。スーパーツインズ以外は、有事でないときの本業を公表していない。したがって、サリームメンバー全員が有事の姿で参加していた。
ラクサム人もジミーも、さらにはサリームメンバーも、数々の特殊能力を持っている彼らだが、その”心情”は普通人とまったく変わらないことを大いにアピールする形をとっていた。こうした取り組みが、差別や偏見を払拭する原動力になると信じていたからである。
そして、ラクサム人のクリスタが被爆2世として発言した。要約すると・・・
ラクサムでの被爆当時クリスタの両親は、爆心地から8キロほど離れた小さな町に住んでいた。生前の両親から聞かされた話である。
「・・・”白い閃光につつまれたかと思ったら、次の瞬間、爆風で家具やモニターが宙に舞ってガラスを突き破っていった”と、被爆の瞬間を父は表現しました。核爆弾が落とされたらしい。背後に強い光を感じ、振り向いた瞬間、吹き飛ばされました。気付くと3階建ての家屋はぺしゃんこでした。瓦礫の間からはい出した少女を見てわれに返ったそうです。
”助けて・・・””苦しいお母さん・・・”、瓦礫に挟まれて身動きができない人、喉にガラス片が刺さって声が出ない人、引っ張り出した時、既に冷たくなっていた友人もいたそうです。人混みと煙の中、焦げた死体や血のにおい、助けを求めるうめき声、肉がちぎれて血まみれになっている人、外で熱線を浴びた人は、皮ふの露出した部分が焼け、別の人は、爆風による飛来物、ガラス片などが体に刺って泣き叫んでいました。眼球が飛び出ている人、火傷して二倍三倍にふくれあがっている人達がいっぱいいました。近くの川は血の海に染まっていた”など、想像を絶する光景を目の当たりにしたそうです」
さらに続けた・・・
「爆心地から離れた街に移り住んだ両親でしたが、”放射能がうつる”と言われるなど、父や母はひどい差別を受けました。失意のどん底で、”被爆のことは忘れよう。もう二度と口に しない”と決意して、難民専用の宇宙船に乗りこんで、ラクサムを後にしました。行きついた先で、難民キャンプを許可してくれた星が見つかり、そこに定住することが決まった。そこであたしは生まれたんです。原爆による被爆は、それまで人類が経験したことのなかった未曾有の体験です。暮らしていた地域や社会が完全に壊され、家族・人間関係が壊され、その後の暮らしは経済的にも精神的にも大変な苦難を強いられます。被爆者であれば、ほぼ間違いなく放射能による何らかの影響を受けている。あたしも被爆2世です。2世の多くは差別や偏見を心配して名乗りを上げていないけど、あたしは隠し事が嫌いでした。だけど、それが偏見や差別の始まりでした。悪いことにあたしは放射能のおかげで特異体質を持って生まれてきました。放射能汚染の弊害で特異体質のラクサム人が多く生まれました。私と一緒に参加しているほかのラクサム人も例外なく特異体質を持っています。化身できたり、氷のように熱を吸収したり、逆に高熱を発散したり、外見が異様で醜かったり、それを補うような特殊な能力が備わっています。本来なら死産か、生まれても長く生きられないと思われていますが、あたしたちは運よくというか、運悪く生き延びてしまったんです。核による被爆は世代を超えて受け継がれてしまうんです。被爆2世だと明かすと、冷遇され、迫害を受け続け、両親が亡くなるとすぐにその星を去り、それからは偏見や差別があると星々を転々とする放浪の生活を余儀なくされました。落ち着かず、眠れない日が続きました。目を閉じると、そのまま闇の中に引きずり込まれてしまいそうな気がしました・・・」
クリスタが最後に添えたメッセージは
「どんなに言葉を尽くしても伝わらないかもしれません。いくら想像を膨らませても描けないくらいの出来事だったんですから。だけどこれ以上忘れないように何か心に残すこと、それは二度と同じ過ちを繰り返さないための予防線です。だから一人でも多くの地球人に伝えたい。それがあたしたちの務めだと感じました。あたしたちを受け入れてくれた地球人に対するせめてもの恩返しであり、遠い過去に核を使用した経験を持つ地球人だからこそ、同じ過ちを二度と繰り返してほしくない、そしてあたしたちのような悲惨な経験をする人が生まれないように願っています」
この結果、世界中に大変な反響を呼んだ。そして、ヒューム人という地球外生命体との接触が行われて以降、宇宙的視野を前提に”核”のあり方を議論する風潮に拍車がかかり、核拡散防止条約について抜本的な見直しを迫られたのである。まずは、核保有国の一掃に向けた取り組みを推進するために、国連本部はヒューム人のシャリーに相談を持ち掛けた。すると、意外な返答が返ってきた。
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