デイノニクスの冒険

本編は「遊園地の異変」…続編です。


デイノニクスの冒険


 子どもたちが遊んでいたボールは全部で3つだ。そのうちの一つのボールを蹴りそこねた1匹のデイノニクスが振り向いてボールを追いかけていった。勢い余ったボールは柵を超えた。超えた先にはウォーターライドがあった。カナルボート型のライドがやってきてボールがそこへ飛び込んた。デイノニクスは身軽な身のこなしでウォーターライドの後方部になんとか乗り込んでしまった。先頭に乗っていた親子5人は驚いたが、これも演出の一つだと勘違いしたようだ。そのままデイノニクスを乗せたまま「禁断の魔宮」に入っていってしまった。それに気がついた少年が、皆を焚き付けて「禁断の魔宮」の出口に先回りしようと一斉に走り出した。残ったデイノニクスたちも後についていった。総勢30人はいただろう。

 このアトラクションは、呪われた寺院を奥深く進むスリル満点の冒険ツアーだ。緻密に作られた古いお城や起伏に富んだ地形が再現されている。「禁断の魔宮」を目指した乗客もまた、呪われた寺院に住む悪霊の怒りに触れてしまう。奇声をあげるミイラや邪悪な生霊の攻撃、噴出する溶岩、崩れ落ちる橋など、次々と迫りくる危険は息つく暇もない。このツアーガイドを担当するのは人型ロボットだ。ライドに同乗して、呪われた寺院の背後にある物語について解説してくれる。そして、シュールな光景、まばゆい色彩、ユニークな音楽に囲まれ曲がりくねった流れに入り込む。スリル満点のライド型アトラクション。ジェットコースターとも、ゆっくり進むゴースト系ライドとも違う刺激的な体験ができる。

 しかし、ここで思わぬ自体が待ち構えていた。デイノニクスが移動中に、ライドから飛び降りた。パーク内で突然出現したミイラに驚き、装飾品を噛んだり引っ掻いたりして壊してしまい、音声や光の演出に反応して吠えたり威嚇したりして他の乗客を驚かせてしまった。まさに予測不可能な展開が待っていたのである。


 「禁断の魔宮」パーク内では、乗客や従業員が逃げ出し助けを呼び、パニックが起こってしまった。当のデイノニクスもパニック状態に陥ってしまっていた。状況の変化についていけなくなり、本能的に身の危険を感じ取ってしまったのだろう。


いっぽう、恐竜パークから駆けつけた職員が麻酔銃や網などを使ってデイノニクスを捕まえようと躍起になっていた。「禁断の魔宮」パーク内に入っていったデイノニクスを捕まえようと出入り口付近で待ち伏せしていた。


しかし、ここでデイノニクスたちと一緒に遊んでいた子どもたちが、なんと恐竜パークの職員に対して予想だにしていない行動に出たのだ。


「禁断の魔宮」出口で、麻酔銃や網を持ってデイノニクスを待ち構えていた恐竜パークの職員の目をそらそうとしたのである。

「おっちゃん・・・あそこに恐竜がいるよ!」

と、指をさした方向には誰もいなかった。


一瞬のすきを見て中からデイノニクスが出てきた。だが、恐竜パークの職員にとっては時すでに遅しだった。デイノニクスは子どもたちの巧みな誘導で無事に「禁断の魔宮」から脱出することができたのである。

 さらに、子どもたちは散り散りになったデイノニクスを見つけると、捕獲職員の目をそらしたり、デイノニクスに隠れ場所を教えたりして逃がしてやっていた。


「なんてこった!」

捕獲職員は地団太を踏んで悔しがった。

「子どもたちをなんとかしろ!」


いっこうにはかどらない捕獲作業にうんざりの職員は、悪態をついてやる気をなくしていた。


いつしか園内はデイノニクスを一目見ようとする野次馬たちが大勢集まってきていた。


やがて、園内のあちらこちらに3Dのメッセージディスプレイが大きく表示された。


”当園は、恐竜に危害は加えません。安全に保護しますので、恐竜の捕獲にご協力ください!”


しかしそれもむなしく・・・子どもたちの巧みな誘導のおかげで、恐竜たちは1匹残らず遊園地から無事に脱出してしまったのである。


…続く

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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