AIの暴走

 2060年代のある日。朝の十時過ぎ。

 シュンさんはいつものように自家用車に乗り込み、ナビを操作すると車が静かに動き出した。

「今日の予定は?」

「あなたは誰ですか?」

「(・・? 」

「私だよ!」

「ワタシさん・・・ですか?」

「おいおい何言ってんだ?」

そして・・・窓の外を眺めていると、

「・・・おい、道が違うぞ・・・どこへ行く気だ!」

「・・・東京」

「東京じゃなく大阪へ行くんだぞ!」

シュンさんの身に起きた出来事とは・・・

シュンさんが乗ったのは、自動運転の自家用車だ。車にはAI・・・つまり人工知能が搭載されている。

所有者を認識して所有者の意志に従ってどこにでも運んでくれる。さらにネットとも繋がっているし、所有者とその家族全員を認識していて、家族一人一人の予定も教えてくれる。

ところが・・・ある日突然、何らかの異常で、AIが所有者を認識しなくなったら、そして所有者の指示に従わなくなったら、と・・・こんなことが起こりうると警告を発している研究者もいる。

人工知能(AI)が世の中に蔓延して世界経済を動かしている現代社会は、想像を超えた明るい未来と暗い未来が同居するような世界が目の前に広がっていくのだ。

さて、突然暴走をはじめたシュンさんの自家用車はどうなったのか。

幸いにも安全にAIを停止させるための「非常停止ボタン」がありましたので、これをすぐさま押してAIを緊急停止させ、事なきを得ました。

「非常停止ボタン」を押すと自動的に、AIの開発、提供しているメーカーに自動的に通報されるのです。

待つこと30分ほどで代替え車両がシュンさんのもとにやってきました。

代替え車両から降りてきたのは、なんと、これも人型ロボットでした。

「たいへんなご不便をおかけしました。こちらの車両をお使いください。」

・・・と、人型ロボットがシュンさんに話しかけてきました。

シュンさんは、結局この日の予定をすべてキャンセルしてしまいました。さっそく代替え車両に乗り込んで、「何かニュースはない?」・・・と、車に話しかけました。

「モニターに映しましょうか?」

「頼む」

 そこに飛び込んできたニュースはこんな内容でした。

 人工知能やロボットの登場で職が奪われる「テクノ失業」が現実化してあちらこちらで労使交渉が始まっていることはシュンさんも知っていましたが、最大手の企業が大量にリストラするというニュースでした。

 ちなみにAIが奪う職業の予想は・・・データ入力係、 電気通信技術者、電子部品製造工、ビル施設管理技術者、 ビル清掃員、医療事務員、ビル管理人、ホテル客室係、財務・会計・経理、一般事務、薬剤師・・・etc.そして2060年代に入って、すでに車の「運転手」という職業がなくなっているのです。特殊車両を除くすべての車両は公道を走る際、AIIによる全自動に切り替わっているのだ。

つまり、相当な数の職業に関わっている従業員や役員はいつでも「AIに取り換える事」ができるんです。

事業主はできれば安い給料で雇いたいと思っている。

AIやロボットなら初期費用とメンテナンスの費用だけで毎月の給料は払う必要はない。だからどのような職業の人でも機械に仕事を奪われる可能性があると言える。たいへんな世の中になりそうだ。そのかわり・・・新しい職種も生まれるだろうが、人間のスキルがどこまでついていくことができるかが問題。ついていけない人たちは一体何を糧にすればよいのでしょうかねぇ・・・

シュンさんはつぶやきました。

「うちの器械も一から練り直さないといけないね~」

シュンさんの仕事はIT産業のエンジニア。

シュンさんの乗っていた車に搭載のAIは自分の手掛けた代物でした。


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写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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