恋ごころ

 あなたを初めて見たあの日から僕の心はときめいて、考える度に鼓動が鳴りやまない。均整のとれた肢体と魅惑的な声に僕の心は奪われてしまった。完璧な敗北だ。

 周囲の友達からは「あの子に近づくな、危ないよ」って言われていたけど止められなかった。あるとき彼女は「父を紹介したいの、会ってくれる?」と言ってきた。

正直やったー!と思った。

「君のお父さんって、どんな人?」

「私はお父さん子、時には厳しいけど、とっても優しいよ」

数日後、僕は彼女に誘われるままに自宅に案内され、お父さんと面会した。

僕は彼女の乗るドローンに同乗して、郊外にある樹木に囲まれた簡素な屋敷って感じの一軒家にたどり着くまでに、時間にして約30分だった。都会の高層ビルの立ち並ぶ雰囲気とは全く違う緑豊かな風景である。やはり都会育ちとは違う素朴さが、彼女の中からにじみ出ていたのもうなずける。

「よく来てくれたね、マーヤから聞いていたので心待ちにしていたんだ」

とても気さくなお父さんだった。奥へ案内され、彼女は飲み物を準備するために席を立った。

「君はマーヤをどう思っている?」

突然お父さんが質問してきたので、正直気が動転してしまった。

言葉に詰まっていると

「これは一つの実験なんだがね・・・」

僕は予想だにしない言葉が発せられたのに驚いてしまった。

「最初に君に誤っておきたい。これはある機関の要請で実験していることなのだよ」

僕はなんのことだかチンプンカンプンである。

「君はマーヤを人間だと信じていたと確信しているのだが、付き合っていて違和感はなかったかね?」

ガガ~ン!

そう言えば・・・マーヤと一緒に食事をしたことがなかった。誘ってもいつも何らかの理由を付けて断られていた。

「マーヤはまだ人間の食物を“食べる”機能が十分に備わっていない。だが、マーヤ自身は何の疑問も抱いていないのだよ。マーヤの記憶は作り物だ。その中で食事という概念はないのだよ」

「人が食べているところを見て、何も感じないのですか?」

「空腹感がないからね」

「今日君に来てもらったのは、マーヤに関する感情の変化のデータを採らせてもらうためなのだよ、協力してくれないか?」

マーヤが人間でないことはショックだが、いままでの感情はどこかに吹っ飛んでしまい、彼の言う実験とやらに興味がわいてきた。

「これって違法ですよね。たしか、人型ロボットは明らかに人間と区別できるような外見でなければいけないと聞いています。何年か前からアンドロイドは製造禁止になったはずですよね。要請してきた機関ってどこですか?」

「政府と軍だよ」

あっさりと教えてくれた。

「政府や軍が何を考えているかは知りませんが、本当にそういうお墨付きがあるのなら協力しましょう」

椅子に座ると頭にヘルメットのようなものをかぶせられ、両腕に電極を付けられた。

「いくつかの質問に対して君の反応を調べるが何も答える必要はないよ。ただ黙って質問を聞いていてもらいたい」

十分もすると終わった。

「これで終わりだ、お疲れ様。このデータがマーヤをより人間に近づける有効なヒントになると確信しているよ。大変恐縮だが、今日ここへ来た記憶は消させてもらうよ」

ふと気が付くと、僕は公園のベンチでいつの間にか眠ってしまったようだ。

それから約1か月後のこと、僕の知り合いがマーヤという女性に熱を上げていることに妙な違和感を覚えた。僕はその女性のことは何も知らないけど、何か危険なにおいを感じ取っている自分に気が付いたのである。

そして、知り合いに対して「あの子に近づくな、危ないよ」と、思わず忠告している自分がいた。

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この度、過去にブログで紹介した記事を元に再編して書き下ろした「誰にも教えたくない写真上達法!パート1~4を出版しました。著者ページは以下のURLよりご確認いただけます。

https://www.amazon.co.jp/-/e/B08Z7D9VXK

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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