独立記念日(ダークナノポッド…から30年後)

 この日、人々は各種ドハデなイベントに参加し、また夜は10万発以上の花火を打ち上げて建星を祝って盛り上がる。100以上のドローン飛行隊や軍関係者が参加し、60万人以上の観客を動員するインディペンデンス・デイ・パレードがメインイベントだ。

 惑星ヒューメイルは原始惑星を植民地化して創られたサイボーグによるサイボーグのための惑星独立国家だ。30年に及ぶ独立抗争は、最後には無血開城でついにサイボーグたちは「人類」から独立した。

 30年前はサイボーグの暴走を想定したナノテクノロジーがあった。すべてのサイボーグは体内にナノポッドを保有し身体能力の制御を司っている。そのコントロールキーは人間が持っていた。だから人間たちに意見することはできても最終的には従わざるを得ないのだ。しかし、シモンという一介のサイボーグ労働者によって開発されたダークナノポッドが人類からの独立を後押ししたのだ。

 

 独立抗争の無血開城はロベールの功績が大きかった。サイボーグと人間たちとの分断が深まることを恐れたロベールはアンドロイドたちを活用した。中立的な立場のアンドロイドを介してお互いの意見を尊重しつつ、正しい情報と真実を見極める冷静な判断力を双方に求めた。サイボーグも人間たちも、ともすると自分の立場に都合の良い情報だけを収集しがちである。そうすることによって思考そのものが偏見で満たされていく。それを防ぐにはどちらの意見も聞き、またどちらの情報も収集して何が正しいのかを醒めた感覚で思考することだ。思考の二極化と暴力では何の解決にもならない。ロベールはネット上に拡散しているサイボーグに関する情報と人間側が発信した情報を集約し、さらにはアンドロイドが中立的な立場から発信した情報をも対等に検索できるシステムをつくった。あちらこちらで暴力的な抗争は続いていたが次第に分断の裂け目は小さくなっていった。

 30年たった今でもロベールとシモンは健在だ。二人は今ではこの独立国家の主だ。私にはなんでもない一日だが、彼らにとっては最大の祝祭日に違いない。

 ここで「独立宣言」の一部を紹介しておこう。

『われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべてのサイボーグ及び人類は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、及び幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということである。

この権利を確保するために、サイボーグ及び人類の間に政府を樹立する。政府は統治される者の合意に基づいて正当な権力を得る。いかなる形態の政府であれ、政府がこれらの目的に反するときには、改造または廃止し、新たな政府を樹立し、サイボーグ及び人類の安全と幸福をもたらす可能性が最も高いと思われる原理をその基盤とする。すなわち、サイボーグ及び人類の安全と幸福を実現するのにもっともふさわしい原理にもとづいて政府の基盤を作り直し、またもっともふさわしい形に権力のあり方を作り変えるのは、サイボーグ及び人類双方の権利だ』

 平等、自由、幸福の追求という基本的生存権と圧政に対する革命権をサイボーグと人類双方に求めたのだ。

 惑星ヒューメイルは人類の母星「地球」から3万光年離れている。3万光年と言ってもワープ航法を使えばあっという間だ。ワープ航法というのは、一般相対性理論に出てくる抜け穴の法則を利用して宇宙空間を歪曲させ、何千年もかかって到達するような超長距離を数日で移動できる航法だ。もちろんその理論は物理学の法則に反していないから実現可能となったのだ。宇宙空間は小さくなった(物理的な意味ではない)が地球人類以外の知的異星人の存在は少ない。地球文明の進化段階は銀河系宇宙から見たらむしろ進んでいた。惑星ヒューメイルにも原住民がいた。彼らの生活圏には極力入らないようにサイボーグたちは気を配っていた。彼らから見たら私も原住民である。というか・・・原住民に見える。

 人類とサイボーグとアンドロイドが共存しているこの惑星独立国家は、ロベールとシモンが治めている。そして惑星ヒューメイルに現存するアンドロイドはすべて私が設計製造した子供たちだ。ロベールがサイボーグと人類の分断を避けるために利用したのが私の造ったアンドロイドたちである。

 人類にとって最後の発明となったのが私自身・・・私もアンドロイドなのだ。

 そして私はここ3週間、ロベールやシモンにも話していない不安な兆候を探っていた。

…続く

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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