クーデター(ユリウス…続編)

本編は「ユリウス」…続編です。


 今や通常兵器もデジタル兵器も核戦争計画に盛り込まれている。核兵器の脅威が最大の抑止力とされていたのは昔の話だ。核兵器そのものが抑止力だという発想を捨てる時代である。安保理常任理事国として国際社会の平和と安全に責任を持つはずの理事国自身が武力で国際秩序に挑戦するという異常事態に、安保理は無力さをさらけ出したという過去の苦い経験から、国連は先制攻撃を考えている敵がひるむほどの損害を核以外の手段で与えるための新たな戦争計画を模索する必要性が問われていた。そんな中、量子コンピュータの飛躍的な進歩に伴って、新しいAIモデル、クアンタムは誕生し、外見をアンドロイド仕様とされたクアンタムは全世界に1億人が散らばっていた。そして、ソフィアの創業者のひとり、ウィン博士らは、政府の要請を踏まえたスーパー・クアンタム・AI(SKAI)計画に従事することになった。このSKAI 計画は政府の最高機密として遂行されていた。これがスカイ・フォー誕生のきっかけとなったのだ。

 サイバー攻撃により国家機能をマヒさせ、その間に特殊部隊などによって、政治経済の中枢部、都市部でのインフラ設備などの重要施設を迅速に占領してしまう戦争形態を「ハイブリッド戦争」という。敵を物理的に打ち負かすのではなく、機能不全に陥らせることが優先されるのだ。昨今の紛争ではこの ハイブリッド戦争が主流となり、サイバー攻撃能力は、主要国の新たな核戦争計画の柱の1つとなっていた。サイバー攻撃の後に投入される特殊部隊がいわゆる軍事用サイボーグたちである。そして、核兵器と通常兵器の境目は、かつてないほど曖昧になっていた。

 ラウロの提案は、国民統一政府に対してクーデターを模索していたユリウスのメレンチーにとっては「渡りに船」であった。軍事用サイボーグの実力を試す絶好のチャンスととらえたのである。彼らの軍事用サイボーグはこれまでにない特殊機能を装備していた。シンギュラリのラウロと手を組んだメレンチーは1か月後に、突然国民統一政府に対してクーデターを敢行した。先ずはサイバー攻撃で国家機能をマヒさせると、すかさず国の重要施設に軍事用サイボーグを投入して占領を謀った。当然ながらリビア政府側も軍事サイボーグで応戦していたがまったく歯が立たなかった。それはユリウスの軍事用サイボーグに搭載されていた特殊機能のおかげだ。物理的破壊をもたらす機能ではなかった。一言でいうと「精神的破壊」である。サイボーグはもともと人間の意識を電子化してボディにインストールされている。そのデジタル・マインドに直接侵入して意識を破壊してしまう恐るべきウイルス性兵器であった。強弱を調整でき、最強にセットすれば文字通りサイボーグの「死」につながる。最弱では戦意を喪失して降伏させることもできる。ユリウスは政府軍の多くのサイボーグたちが戦意を喪失して連行されていく様子をメディアに公開した。自分たちの優位性を世界にアピールするねらいがあった。それと、しびれを切らした国連にスカイ・フォーを投入すべき状況であることを見せつけて、彼らを誘い出す作戦であった。

 リビアの各都市にミサイルが降り注ぎ、約60万人の市民が近隣諸国に逃れた。国境には、リビア人の難民を乗せた数千台のドローンが列を作った。炎天下で子供やペット、持ちうる限りの財産を抱えて徒歩で国境を目指す人々もいた。家族とともにリビアからやってきたという少女は、涙をこらえながら父親がリビアにとどまっていると語った。

「父はリビアに残っています。私たちのヒーローであるリビア軍に物資を届けて支援するつもりなんです。もしかしたら父も戦うかもしれない。私の生まれ故郷リビアで今週起きた出来事に心を痛め、呆然としながらこのニュースを理解しようとしています。私の国とそこに住む人たちが空爆を受けています。友人や家族は身を隠しています。国が破壊され、家族たちが家を失い、これまでの人生が燃えて炭の破片となり周りに散らばっています。そんな恐ろしい光景を見て私は心が引き裂かれる思いです。私は父の故郷であるトリポリでの過去の戦争、家族が話してくれた恐怖を思い出します。平和をもたらすことのできない指導者は目標実現のためならどれだけの時間や労力、汚い手段をも惜しまない人間であり、使える手段は何でも利用し、残酷になることができる。終わりのない巨大な力を持ち、そしていつも罪のない人々が血と涙の代償を払うのです」


 この状況を静観していた国連もようやく重い腰を上げた。しかし、リビアを支援しようとする国は多かったが、頼みの綱となるサイボーグがあてにならない状況にいらだっていた。そしてついに政府はソフィアに対してスカイ・フォーの要請を出したのである。

 ウィン博士はこの要請を受けてある懸念を抱いていた。デジタル・マインドに直接作用するウイルス性兵器に対して、こんなウイルスをつくれる人間に心当たりがあったのだ。

ウィン博士は・・・

<彼の仕業としか思えない・・・>と、彼ではないことを願いつつ、心の中で叫んでいた。


…続く。

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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