始動(新生スカイ・フォー …続編)
カーラ・ファーナムは民間の宇宙探査分野のベンチャー企業、”スペース・ナビ”のマーズ・オフィスから、メグ・バークリーは同じくルナ・オフィスから地球のウィン博士の研究所にやってきた。
宇宙ビジネスにおける「探査分野企業」とは、地球や月、火星以遠の天体(深宇宙)において、探査するための技術を開発したり新しい衣食住の在り方を提案する事業や、宇宙資源の探査と開発に関する事業に取り組んでいる企業のことである。そして、彼女たちの所属する”スペース・ナビ”は地球を代表する企業として惑星ヒュームと交流を深めていた。ヒューム人の文化やテクノロジーは”スペース・ナビ”を通じて地球、ルナシティ、マーズシティに広く紹介されていた。地球人向けにアレンジされたヒューム由来の商品は5万アイテムを超えていた。今回スカイ・フォー用に開発されたボディスーツは、ヒューム宇宙公安部が採用しているボディスーツのテクノロジーが詰まっていたのである。しかし、これは本来なら国家機密レベルのテクノロジーなので、簡単には公開されないものだ。カーラとメグの仲介が特別だったことの証拠である。
ボディスーツテクノロジー最大の特徴は「フラッシュリング」だ。「フラッシュリング」とはヒューム星宇宙公安部のリーダーであるシャリーが、小惑星に幽閉されヒュームを永久追放された後、偶然地球にやってきた犯罪者たちを拘束したのが「フラッシュリング」だったのである。「フラッシュリング」の効果は拘束だけではない。切断、連結 、飛翔等使い方はいろいろだ。大きさ、数、挙動は頭で考えるだけで制御できる。スカイ・フォーメンバーはさっそくボディスーツのテストを始めた。ウィン博士の研究所の上空領域を所狭しと飛翔し、また自身を転送し、「フラッシュリング」の使用感を確認したりしていた。小一時間もすると操作感覚を掴めるようになってきた。そこでようやくウィン博士は現地へのGOサインを出してくれた。
4人は現地までそのまま飛行して行った。リビア現地は正午を過ぎていた。市街地は破壊されたドローンや瓦礫の山が散乱していた。遊歩道には人っ子一人いない。もちろん自動走路は完全に停止している。前方でいくつかの噴煙が上がっていた。4人はそれを目指した。4人の前に大きな円形の白い建造物が現れた。医療施設である。一部が破壊さて、建物からは何人かの市民たちが逃げ出していくのが確認できた。その建物に、今まさにユリウス軍事サイボーグから更なる砲弾が撃ち込まれようとしていた。クリスチーヌは放たれた砲弾に意識を集中すると突然砲弾は燃え尽きたように消滅してしまった。次にジョージが同じく砲弾に意識を集中すると、今度は突然砲弾が木っ端みじんに裂け散ってしまった。続いてデビッドが逃げ遅れたひとりの老人をフラッシュリングを使って柔らかく捕捉しながら安全な場所まで運んで解放してやった。さらにミニョンが負傷している市民を手当をしていた。その光景は驚くべきものだった。足に大きな負傷をして歩けなかった女性がミニョンの不思議な”緑の光線”を浴びるとたちどころに傷が癒えて立ち上がることができてしまったのである。そして二人目の負傷者の手当てを始めていた。
ユリウスのサイボーグが
「誰だ・・・邪魔をするな!」
デビットが叫んだ。
「ここは医療施設だぞ、無差別の破壊攻撃はやめな、ルールに反するぜ!!」
「うるさい、名を名乗れ、貴様たちを拘束するぞ!」
クリスチーヌが対応した。
「私たちはスカイ・フォーよ。メレンチーに伝えて、これからは私たちがお相手します」
リビア政府軍の軍事サイボーグたちは関与できないままに、この様子を遠巻きに観察していた。当然ながら一部始終の映像を記録していたのである。砲弾が消滅する瞬間、はじけ飛ぶ瞬間、不思議な「光る環」が現れて老人を安全地帯に運ぶ様子、そして、治療後に何事もなかったかのように立ち上がった女性の映像が、すぐさまSNSで配信され世界中に情報が広まった。スカイ・フォーが公に姿を現すのはもちろん初めてだ。だが、ヘルメットとブラック・ゴーグルのおかげで素顔は確認できない。つまりは正体不明の4人ということになる。「スカイ・フォーって、何?」「救世主現る?」「ヒュームからの使者?」・・・全世界がスカイ・フォーの話題で検索エンジンはパンク寸前になった。
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