停戦(ユリウスの抵抗…続編)

本編は「ユリウスの抵抗」…続編です。


 ルスラン博士は息子のラウロから助けを求められたのが、「三原則」無効化ウイルスの拡散をウィン博士に迫った時にスカイ・フォーに阻止されてからまもなくであった。その時ルスラン博士はメレンチーにラウロを引き合わせたのである。ウィン博士に対してはルスラン博士にとってもライバル意識がある。そのライバル意識はウィン博士のスカイ・フォーと自分の造ったサイボーブたちを戦わせる・・・という強い闘争心に変わり、やがて明らかな敵意と変わっていったのだ。そして、メレンチーの下でサイボーグ製造に携わるうちに、手段を選ばないと考えるようになってしまった。ルスラン博士はラウロたちを使って、先進科学の宝庫であるヒューム人のテクノロジーを入手するための情報収集を始めていた。ヒュームのテクノロジーを搭載した地球上で無敵のサイボーグを目指していたのである。

 ヒューム人との交流は公式的なものだけではなかった。どのような世界でも闇取引、密輸、密貿易に関わる連中がいて、当然ながらそこには「裏ルート」がある。ラウロたちはそうしたヒューム人の「裏ルート」を探していたのである。ヒュームのテクノロジーと引き換える対象は違法薬物である。地球以外では手に入らない違法薬物は何種類もあったのである。ラウロたちは、対象となる違法薬物をグローバルネットワークの闇サイトにアップしてアクセスを待っていた。ほどなく交渉内容に同意してきたヒューム人の売人が現れた。相手はヒュームのテクノロジーに明るい知能犯罪者集団であった。

 ヒューム売人の頭領はハルムと名乗っていた。ハルムは数日前に地球の入港ゲートに到着していた。入港ゲートには大小さまざまな荷物とともに審査待ちの旅行客があふれている。その多くは、ビジネスで訪れた者、旅行の団体や子供を連れた家族旅行者たちである。入港手続きは、IDチップがあれば身分証明できる。銀河市民が身分の証明に用いる超小型の内蔵チップだ。惑星ヒュームとの交流がきっかけで、惑星間通商活動の円滑化などを図る目的で、通商や経済、航宙などに関して規定を取り決めた銀河条約に基づいて、惑星ヒュームとの間に結んだ星間通商によって、地球でもIDチップを検知するためのセキュリティ・チェックポイントが設けられていた。しかし、このIDチップを偽造して入港を試みる犯罪者たちが後を絶たない。偽造してまで入港しようとする目的の多くは麻薬・違法薬物の密売、密輸だ。当然ながらハルムたち一味も偽造IDチップで入港していた。もっともハルムたちにとっては偽造IDなどお手の物。複数の偽造IDを使い分けていた。


 リビア政府の大統領府長官顧問は、メディアの取材に対し「ユリウス軍はスカイ・フォー介入で計画が進んでいない」と指摘したうえで、「ユリウス側の立場は大きく軟化した。近く停戦すると確信している」というニュースが飛び込んできた。

 「政府軍の撤退」「暫定政権の設置」「サイボーグの人権確立」が合意案としてリビア国民統一政府側に示されたようだ。ユリウスはリビアを「サイボーグによるサイボーグのための国づくり」を目指してきた側面があった。

 メレンチーの立場が軟化しているとする政府側の見方が有力視されてきた。数日から1週間ほどで合意の可能性があることを示唆する情報が飛び交っていた。スカイ・フォーの介入によるユリウスの立場の悪化を食い止め、あるいは回復までの時間稼ぎではないかと見られている。ユリウス側が合意案の内容をわざと漏らしたのではないか、合意案の一部が報道されたこと事態が、ユリウス側の思惑なのではないか・・・と推察する専門家も現れてきた。

 メレンチーは「停戦」を模索する姿勢を見せながら、一方でハルムたちの惑星ヒューム、いや銀河系というとてつもないグローバルなテクノロジーを手に入れるチャンスを着々とうかがっていた。ハルムたちを迎え入れたメレンチーは、ルスラン博士にスカイ・フォー対策を早急に講じる様に指示したのである。


…続く。

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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