スーパーキャット

本編は「サイコパワー」・・・続編です。


 二人の博士たちウィン、ルスランは、ジミーとヘレンが帰って行った後もしばらく興奮冷めやらぬ様子であった。これまでは日常的にヒュームのテクノロジーに接してきた二人だが、ジミーの存在が二人に与えた影響は大きかった。地球のテクノロジーもまんざら捨てたもんではないと考え直すきっかけになったのである。

 そんなある日、ヒューム人の一般観光客のひとりが、アリゾナ州グランドキャニオンのスカイウォークを観光中に容態が急変する事態が発生した。すぐに救急搬送が必要だった。

 グランドキャニオンとラスベガスとは約500キロ(約東京~大阪間)離れているが、アメリカの感覚ではすぐそこという感覚だ。 人工都市のラスベガスと大自然のグランドキャニオンが近くにあるという錯覚が、こうした非常時の対応に支障をきたしていた。緊急ドローンでの搬送はできるのだが、容態の急変という緊急事態においては非常にもどかしさを感じる。

 グランドキャニオンは、7000万年前にこの一帯がカイバブ・アップリフトという地殻変動により隆起し出来始めた。4000万年前になると、コロラド川による浸食が始まり、200万年前に現在の姿になったといわれている。このグランドキャニオン・ビューポイントの一つウエストリムには、2007年にはスカイウォークという、岸壁からU字型に張り出した展望台があった。床面がガラス張りになっていて、足元から1200m下の谷底を見ることができたが、70年前に全面的に改修され、巨大な透明球状ドームに姿を変え、この中を無重力状態で浮遊しながら絶景を楽しむことができるようになっていた(なぜか、今でもスカイウォークという名称はそのままだ)。収容人員は千人以上だ。絶景を背景に朝日や夕日を眺めるという貴重な体験もでき、国内外を問わず、月や火星、さらに惑星ヒュームからの観光客にとっては非常に人気のある観光スポットだ。

 そして、たまたまヘレンとジミー、それにエミリーと子どもたち、そして研究所スタッフ・・・上司のケヴィン、同僚のニック、ジャン、トニーというメンバーで観光に訪れていたのである。実はこれもジミーの提案であった。ジミーやエミリー、子猫たちは非常に好奇心旺盛だ。たまたまモニターで見ていたグランドキャニオンの光景に魅せられたジミーは、大自然の絶景を自分の目で確認してみたいという欲求を抑えきれずにヘレンにせがんだのである。その結果、研究所スタッフの主力メンバーが休日を利用して訪れることになったのである。

 ジミーは今ではすっかりテレポートもテレキネシスもマスターしていた。その能力はスーパーツインズに匹敵するものだ。もちろん公には公開していないが、ジミーはいつも丸ぶちのサングラスをかけている。この姿を見て、すれ違う人々は一様に笑顔になる。中には「かわいい猫ちゃん!」と声をかけてくる人もいた。ただし、まだ一般人との会話は禁止してあるので、ジミーは、

「ニャー」と啼くだけにとどめている。

 ニック、ジャン、トニーの3人が球状ドームに入るとさっそく浮遊し始めた。浮遊するには施設から供与された反重力ベルトを操作することで簡単に浮き上がれる。残る2人とジミー、エミリー、そして子猫たちは床から浮遊している人々を見上げていた。もちろん床面はガラス張りなので、足元から1200m下の谷底を見ることもできる。


 そんな中で、緊急事態は起こったのだ。

 ヘレンが見上げていた先には、ヒューム人と思われる人物が意識を失ったような状態で漂っているところを発見した。高さ30mはあっただろう、ヘレンがすぐさま浮き上がって無意識状態のヒューム人の救助に向かった。ほどなくヒューム人を捕まえてゆっくりと降りてきた。床面に降りるとすぐさまヘレンはヒューム人を検診する。ヘレンはドクターの資格も持っているのだ。

「このままでは危ないわ・・・」

ケヴィンが

「すぐに救急ドローンを要請しよう」

ヘレンが

「ここからだと間に合わないわよ」

周りにはすでに、多くの観光客が何事かと野次馬のように集まってきていた。

ジミーが思わず口を開いた。

「テレポートしよう」

承諾したヘレンに、ジミーが

「ヘレン、救急医療施設をイメージして・・・そこへテレポートするよ!」

患者のヒューム人とともに、ヘレンとジミーは忽然と姿を消してしまった。

 後に残されたケヴィンたちは群衆に囲まれて、対応に躍起になっていた。

 この騒動は当然ながら地元メディアが見逃さなかった。多くのその場にいた観光客の証言もあり、しゃべる”猫”の存在が明らかになってしまったのである。

 現場を目撃していた多くの観光客がメディアの報道の中で証言していた。

「猫が女性と会話していたわよ」

「ロボットなんかじゃないよ。私はサイボーグだから分かるが、生命反応があった」

「突然、猫と意識を失っていたヒューム人と女性が消えたんだ」

 その後、アリゾナ州立の医療機関にジミーたちが現れて、意識を失ったヒューム人の治療を要請し、一命をとりとめたことも報道された。

 そして、ケヴィンはジミーについて、実験段階だったので公開する予定はなかったことを明かすしかなかった。

 ジミーのことを、メディア報道は”スーパーキャット”と名付けて呼んでいた。


…続く

 

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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