重要な課題

本編は「マリコフの最期」・・・続編です。


 サリームたちはジミーとともにソフィアのオフィスに凱旋していた。

 ”スーパー・キャット”ことジミーのおかげでマリコフはあっけなく消えてしまった。そして、気絶していたカルロスもシャリーに拘束されてしまった。これで最大の難敵マリコフの核の脅威から、何十年という長い間悩まされてきた銀河連合は解放される時がやってくるだろう。だが、まだ地球人にとってはもう一つ解決しなければならない問題が残っていた。それは・・・ほかでもない地球上に蔓延した核兵器の廃棄問題である。最善策と思われていたワープ・ドライブでの核の転送廃棄・・・転送の瞬間にできる時空の裂け目の転送先で起爆させる方法では、マルチバースに少なからず悪影響を及ぼしていることが分かった今では、この廃棄方法は使えなくなった。万が一他次元で核の暴発が起きれば、その次元からの報復攻撃を予告されているのだ。これだけは何としても避けなければならない。

 サリームたちの無事の帰還とマリコフ退治を祝って、関係者たちが集まりパーティーを開催していたが、浮かぬ顔でひとり望んでいたのがルスラン博士であった。

 パーティの雰囲気とは裏腹にオフィスの壁に向かって何やらつぶやいていた。その様子をみていたカーラが

「ルスラン博士・・・、ルスラン博士・・・」

2回ほどカーラがルスラン博士を呼んでも返事がなかったので肩をポンとたたいた。ルスラン博士は我に返ったように笑顔で振り向いた。

「・・・カーラ、楽しんでるかい?」

「博士こそ上の空みたいで変ですよ!」

ルスラン博士は目頭に指をあててレンズを取り外した。

 

 ルスラン博士はARコンタクトレンズをつけていたのである。自分の目で見ている風景の中に、さまざまなデジタル情報を表示するのがARつまり拡張現実だ。現在のARは、スマートフォンや専用のメガネ型ディスプレイなどを使用しないでも、より簡単に、そして便利にARの世界を実現できている。ARコンタクトレンズとは、ディスプレイやモーションセンサー、通信などの機能を搭載し、一般的なコンタクトレンズと同じように直接目に装着することで、視野の中に画像や文字などによるさまざまな情報を表示することができたり、視線を動かすことによって操作ができるデバイスなのだ。視線の動きを正確に追跡する加速度センサー、ジャイロスコープ、磁気センサー、マイクロバッテリーなどを内蔵しながら、一般的なコンタクトレンズと同様に装着時の違和感が少ないというものだ。

 ルスラン博士がパーティの最中にもかかわらず、これを装着して没頭していたことは、取りも直さず核廃棄の方法の模索であった。そして、もう少しでその答えが導き出せるところまで来ていたのだ。


 ウィン博士が両手にワイングラスを持ってルスラン博士に寄り添って何やらささやいていた。

ウィン博士が

「皆さん歓談中恐縮ですが、ここでルスラン博士から重大な発表があるそうなので、ご清聴よろしくおねがいします」

ルスラン博士は少々戸惑いながら

「まだ発表する段階ではないのだが・・・」

そう前置きして

「皆さんもご存じのように、地球の核廃絶に向けてのプロジェクトは頓挫しています。このままでは地球の将来はたかが知れています。これまでは、銀河宇宙という広大な市場を前にして地球文明は取り残されてきました。その大きな要因となっていたのが核保有だったのです。聞くところによると、銀河連合の通商規定で、過去の苦い経験から、核保有の惑星系はすべて通商禁止となったそうだ。自分たちの住んでいる星が核によって壊滅するのは勝手である。そんな星と関わること自体を固く禁じている。もちろん目的は銀河系宇宙への核の拡散を防止するためです。そして皆さんご存じのように、ヒュームの子孫が住む惑星として認定されるまでは厳しい監視のもと一切の接触を禁じられてきました。そしてこれが、最近までまともに地球外生命と遭遇することがなかった理由でもあります。銀河連合にとっては地球人の核廃棄は望ましいことではあるが、積極的な関与は歓迎していないのも事実です。あくまでも自らが招いた疫病神は自分で始末しなければいけないのです。重要な課題は、完全な核廃絶が完了しなければ地球は銀河系宇宙から孤立したまま、銀河経済の蚊帳の外で放置されたままで終わってしまうということです」

 ルスラン博士はここまで一気に話を進めると隣のウィン博士からワイングラスを取りワインを一口たしなめた。


「そこで、私とウィン博士は過去のデータを慎重に分析した結果、一つの答えにたどり着こうとしています・・・」


…続く

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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