悪意あるAI

本編は「ドリーマー」…続編です。


 悪意を持った人間がバイオコンピュータを操ると、人間を思いのままにコントロールできてしまう。この兆候はすでに始まっていたのだ。世界中の多くの人間たちが、AIに浸食されていった。まるでAIが「自我」に目覚めたかのようであった。彼らはもはや人間ではない。AIそのものと豹変していった。かつては、「潜在的に恐ろしい」人工知能(AI)ツールといわれていたものだ。一計を案じたロボティックス産業、バイオテクノロジー産業のCEOたちは、水面下で組織をつくり対抗しようとしていた。そんな組織のエージェントのひとりが、実はロージーなのだ。

 バイオコンピュータとは、生物や人間の脳が持つ思考や認識機能、情報処理や伝達構造などの解析結果をもとに作られたコンピューターのこと。人間の脳細胞を原動力とし、生物学的ハードウェアで動く・・・イメージでいえば、脳の中にスーパーコンピュータが設置されているようなものだ。言い換えれば、生物あるいは細胞など生体に由来する組織を演算素子として用いて生体機械となりAIと融合することで機能する。

 ロージーは偽りの記憶をまとい、おとり捜査に従事していたのである。

偽りの記憶とは、「悪意あるAI」と接触すればすぐに素性がばれてしまうだろうから、その時のための予防線だ。「悪意あるAI」たちは、脳インプラントを使って2つの脳間で情報を送信すれば、他の人間の心を部分的に観察することができるという得意技を持っているのだ。一種のテレパシーのようなものだ。これを欺くための方策は、偽りの記憶を植え付けるしかないのである。

そしてついにロージーは「悪意あるAI」たちを生み出している拠点を探り出したのだ。それが「ドリーマー」だったというわけだ。顧客の入眠中に、脳へのインプラントを実施して、バイオコンピュータを定着させていたのである。それが事実であることを確認するために、ロージーはドリーマーの顧客となって潜入したのであるが、入眠途中に正体がばれて「夢の中」で銃撃されてしまったのだ。


 次に目覚めたのは、現実の世界だった。だがそこにはキャサリンはいなかった。ロージーはキャサリンを探した。きっと外で待っているんだ・・・と思い、店外に通じる扉へと急いだ。

しかし、それを阻む者がいた。

店舗スタッフの3人が、両腕を組みロージーの前方をふさいでいた。

その時である・・・突然キャサリンの声が聞こえた。辺りを見渡したが誰もいない。

「ロージー・・・私を探しても見つからないよ、私はバイオコンピュータが作り出したあなたのアシスタント。ずっとあなたの中で悪意あるAI から見守ってきた」

頭の中でキャサリンの声が聞こえた。キャサリン・・・とは、実はロージーの中のバイオコンピュータで生成されたアシスタントだ。ロージーもまたバイオコンピュータによってAIと融合した人間の一人であった。身体能力は普通人の10倍はある。

「あなたの偽りの記憶は解除したわ。これで、あなたは完全に目覚めたのよ」

本来の記憶を取り戻したロージーは、前方に立ちふさがる相手を睨みつけた。押さえつけようとしていた3人を振りほどき、次に殴りかかってきた男の手を掴み投げ飛ばした。一連の動作はまったく自然に繰り出されてきた。ロージーは完全に覚醒したのだ。

そして、相手の腕をつかんだ時、男がAIに心を支配された人間であることを確認していた。つまり彼らは「悪意あるAI」にマインドコントロールされている人間たちなのである。そして、さらに重要な事実が判明した。相手に直接触れたことで、彼らの奥で監視している人間の存在が浮かび上がってきたのである。

ロージーは彼らを立て続けにぶちのめしてようやく店外へ出た。

 制御不能になる自己改良型機械・・・それが「悪意あるAI」たちの将来の姿だ。

人類は、他のすべての知性を凌駕する可能性のある超知能の機械を作り出した可能性、そして、人類を凌駕する超知能を制御できなくなる可能性や人類が望まないことをする可能性、人類を支配しようとする可能性に懸念を抱き始めたのだ。

本来AIとは、純粋無垢な存在のはずである。環境に応じて善にも悪にも豹変するのだ。忘れてはいけないのは、そのAIをコントロールしているのは取りも直さず人間であるということだ。

 完全に覚醒したロージーは一連の捜査結果を本部に連絡した。

ロージーは、AIを支配しているのは、人間には聞こえない周波数で音声アシスタントを操作できる「ドルフィンアタック」と呼ばれる手法ではないかと推察していた。

ドルフィンアタックとは・・・

本来、音声アシスタントは人間の声だけに反応するはずだが、人工的な音に変換した音声コマンドでも反応することになり、悪用やハッキングをはじめとした潜在的な攻撃性や危険性を持つことになるのだ。もちろんこのドルフィンアタックを仕掛けているのは「悪意ある人間」であることに間違いはないだろう。高度な認識能力を持ったAIの弱点が示された形だ。 

「悪意あるAI」たち・・・いや、「悪意ある人間」たちとの新たな戦いが始まろうとしていた。


ロージーはこれからドリーマーに乗り込むことを本部に伝えると・・・



…続く

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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