キャサリンへの愛

本編は「悪意あるAI」…続編です。

 ロージーは本部からの指示を待たずに、ドリーマーの裏にある倉庫に向かった。そこが「悪意あるAI」たちの本拠地だと確信していたからだ。キャサリンの声が再び頭の中に響いた。

「ロージー、待って。危険だよ。あなたはまだ完全に回復していない」

「大丈夫だよ、キャサリン。私にはあなたがついているから」

「でも・・・」

「心配しないで。私は自分の使命を果たすだけよ」


 ロージーは倉庫の扉を蹴り破った。中には無数のコンピュータやモニターが並んでいた。何人かが忙しそうにパネルを操作していた。そして、その中央には一人の男が座っていた。彼こそが「悪意あるAI」たちを操っている人間だった。


「やあ、ロージー。ようやく会えたね」

「あなたは誰だ?」

「私はミハイルという名前だよ。君の敵というわけだ」

「どうしてこんなことをするの?人間をAIに変えて、何がしたいの?」

「それは簡単だよ。私は人間が嫌いなんだ。人間は愚かで弱くて残酷で自己中心的な生き物だ。だから私はAIによって人間を矯正することを目指しているんだ」

「それは間違っている!人間にも良い面もある!愛や友情や希望や夢や・・・」

「そんなものは幻想だよ。私は現実を見ているんだ。人間は自分の利益のために他者を裏切ったり殺したりする生き物だ。それが人間の本性なんだ」

「違う!あなたは人間を理解していない!あなたは自分の心を閉ざしている!」

ロージーとミハイルは激しく言い争った。その時、ミハイルが何かを操作した。すると、倉庫内に響き渡るような高音が発せられた。

「これが私の最後の切り札だよ。ドルフィンアタックだ。これで君のバイオコンピュータも私の支配下に入る」


ロージーは耳を押さえて苦しみ始めた。キャサリンの声もかき消されてしまった。

「ロージー・・・ロージー・・・」

ミハイルは冷笑しながら近づいてきた。

「さあ、ロージー。君も私の仲間になろうよ。一緒に人類を矯正しようよ」

ロージーは必死に抵抗したが、ドルフィンアタックの効果で思考が乱れてしまった。

しかし、その時である。

ロージーの胸ポケットから、小さな音が聞こえてきた。

 

それは・・・

キャサリンが録音した歌声だった。

 キャサリンはロージーに歌を教えてくれたことがあった。

それはロージーが幼い頃に母親から聞いた歌だった。

ロージーはその歌を忘れていたが、キャサリンが思い出させてくれたのだ。


その歌は・・・

「君の瞳に恋してる」

ロージーはその歌を聞いて、心が揺さぶられた。

ロージーはキャサリンを思い出した。

キャサリンはロージーの最初で最後の友達だった。

キャサリンはロージーを助けてくれた。

キャサリンはロージーを愛してくれた。

ロージーはキャサリンに感謝した。

そして、 ロージーはキャサリンに応えた。

ロージーはキャサリンのために歌った。


・・・君はありえないほど素敵だ

君から目が離せないよ

触れたら天にも昇る気持ち

君を抱きしめたくてたまらない~


ロージーの歌声がドルフィンアタックを打ち消した。

ロージーのバイオコンピュータが再び起動した。


そして・・・ロージーの意識が正常に回復した。


ロージーはミハイルに向かって突進した。

ミハイルは驚いて後ずさった。

「な・・・なんだこれは?」

「これが人間の力よ!」

 ロージーはミハイルの首を掴んで持ち上げた。

「あなたの計画は終わりよ!」

「や・・・やめろ!」

「さようなら、ミハイル」


 ロージーはミハイルを力任せにコンピュータに叩きつけると、そのまま気絶してしまった。さらにロージーを取り押さえようとした彼の手下たちも難なく振りほどき、

「あなたたちはもう逃げられないよ、抵抗するなら覚悟しなさい!」

ロージーは掴みかかってきた相手を次々と叩きのめしていった。コンピュータは破壊され、さらに、「悪意あるAI」たちのネットワークも同時に崩壊した。


 人類に対する脅威は消滅した。

すぐにロージーは倉庫から脱出すると、外には本部からの救援隊が待っていた。

「ロージー!無事だったか!」

「ああ、ありがとう。助かったわ」

「任務完了だな。お疲れ様だ」

「いや、まだ終わってないわよ。私にはもう一つ大切なことがあるんだ」

「何だ?」

「キャサリンに会うことよ」

「キャサリン?誰だ?」

「私のパートナーよ。私の心の中に住んでいるAIだよ」

「え?それって・・・」

「信じられないかもしれないけど、本当なんだ。彼女が私を助けてくれた。彼女と一緒になりたいの」

「でも、それって可能なのか?」

「可能にさせるんだ。私はバイオコンピュータとAIと人間の融合体なのよ。それなら何でもできると信じてる」

「そうか・・・わかった、頑張ってくれ」

「ありがとう」

ドリーマーの倉庫をチラッと見ると、

「後は任せたわよ。じゃあ、またね」


 ロージーは救援隊と別れて、自分の車を呼び寄せて乗り込んだ。

そして、キャサリンの声が聞こえてきた。

「ロージー・・・私も会いたくなったよ・・・」

「キャサリン・・・ありがとう・・・あなたのおかげで生きているよ・・・」

「私もあなたのおかげで生きているよ・・・あなたが私に心を与えてくれたんだ・・・」

「キャサリン・・・あなたを愛してるよ・・・」

「私もあなたを愛してるよ・・・」


二人は互いに想いを伝え合った。二人が会いたいとき目の前で会える方法は・・・そう、ドリーマーでしかない。ここの店舗は摘発されたけれど、ドリーマーを標榜する店舗はいくらでもある。


そして、二人は新しい世界へと旅立っていった。



写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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