ボディショップ
初めてのボディ
最もエキサイティングなものの1つは人体の改変だ。視覚、聴覚、手足を失うことはもはやハンディキャップではなくなった。人工臓器の大量生産で人々は既製品の手足や眼、聴覚を手に入れることができるようになった。既製品で満足できない人は特注品を注文する。大昔には犯罪者が顔を整形して身を隠す者がいた。だが今は誰でも整形する時代なので、しばらく会わない人間は外見ではわからないこともあるが、多くの場合人々は外見で相手を識別していない。
ナノロボットと心身の機能を高める脳内インプラントが可能になったおかげで、テレパシー感覚をつかって相手を識別している。テレパシー感覚はブロックもできるので、一度アクセスした人に対して任意にON、OFFできるのだ。テレビや映画などの映像コンテンツは、この脳内インプラントに直接作用して映像を送る。視聴者の心を読み取って、見たいものを見たいタイミングで流してくれるのだ。
不死は人口増加を加速させ、永遠の若さと事実上の不死を手に入れた多くの人々は、広大な宇宙へと冒険の旅に出ていった。地上は超高層ビルや居住空間を地下にも広げることで生活圏を確保していた。
ジュディは18歳になって半年が過ぎた。18歳は法律的には大人と認められる年齢だ。朝からソワソワしていた。週1回の登校日ということもあるが、彼女には人生で初めての経験が待っていたのである。エアカーに乗り込むと勢いよく飛び出していった。学校は一週間のカリキュラムの成果報告と課題の提出、そして午後は友人たちとの楽しいおしゃべりが待っている。
放課後、ジュディは最も親しい友人に、
「今日付き合ってほしいところがあるんだけど・・・」
「何なの・・・ブロック外しなさいよ」
ジュディはブロックを外した。
「ジュディもついに決めたんだ!私はまだそんな勇気ないよ」
「でもいつかは誰でも必要になる時が来ると思うんだ、早いか遅いかの違いだけよ」
友人のメイは少し考えて、
「うちの親は二人とも30過ぎてからだもんね」
「うちは二十代だったよ、年々若くなってない?」
「そう言えば十代で決めた人、増えてるそうね」
「子供産みたいときはいつでも戻れるしね。決めた年齢に戻れるんだよ」
「そっか、それも一理ある」
そんな二人が話していると自動走路は目的地に近づいてきた。走路を降りるとさっそくショップに入った。二人を迎えたのは人型ロボットだ。店内のディスプレイは3D映像だ。様々な衣装をまとった老若男女が立ち替わり入れ替わり現れては消え、消えては現れる。
ジュディとメイが店内で待機しているとそこに現れたのは、バリーであった。バリーはジュディと同じスクールの一つ先輩である。
驚いた二人に対して、バリーは
「ようこそ!」
笑顔であいさつした。
ジュディが
「バリー、ここで何してるの?」
「手伝ってるんだよ」
バリーはスクールのない時間帯はボディショップを手伝っていたのだ。
ジュディはすでに予約していたので話は早かった。
サイバネティックスとロボティックス技術の融合で人体は本物と変わらないボディを実現している。このサイボーグボディに生身の人間の脳(正確には電子化された意識)を移植するのである。元の体には一切メスを入れない。元の体は凍結耐性を強化され(300年の保存が保証されている)冬眠状態で保管される。そしてこの冬眠状態を溶くことで、いつでも元の体に意識を戻すことができるのである。この技術の発達で手軽に自分の意識をサイボーグボディに入れることができるようになった。いくつかのボディをストックしておき、その時の気分でチョイスする人まで現れた。サイボーグボディ本体の売上や意識の移植手数料は一時的なものなので、ボディショップは元の体の保管料で経営は成り立っている。
ジュディは初めての移植ボディなので、元のイメージを壊さないように本来の自分に酷似したボディを注文したはずである。だが・・・
バリーはジュディが施術から戻ると、彼女をまじまじと眺めて、
「お疲れ様!どうだいそのボディの着心地は?」
ジュディは鏡に映った自分の姿を見て、
「しっくりしてて違和感もないわ・・・とても満足よ!」
「そうか、良かった。安心したよ、内心ビクビクしてたんだ。気に入ってもらえなかったらどうしようってね」
その後3人は、ひとしきりスクール内での話題で盛り上がっていたが、二人が満足げに店舗を後にすると、バリーは早速奥の控室に入っていった。
そこにはモニターが設置してあり、それに向かって
「追跡しろ!」
と、話しかけた。
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