再生~新たな旅立ち
再生~新たな旅立ち
ブライアン技師が生体に戻ってすぐにジュディのもとに駆け付けたが、一瞬遅かった。バリーが解凍途中のジュディの生体が入ったカプセルを開放して、両手から光線ビームを浴びせかけていた。このビームはパラライザーであるが、最強にセットすれば殺人光線にもなってしまう。
「バリー、やめろ!」
ブライアン技師はバリーの背後から叫んだ。そして、ジュディの生体に向けていたバリーの両手を掴んだ。
生体に戻ったブライアン技師に対して、バリーはどうすることもできなくなっていた。生身の人間相手では争うことができない。バリーはすぐさま冷凍保存庫から逃走していった。
ブライアン技師は、バリーが戻ってこないことを確認すると、念のためもう一度冷凍保存庫の扉をロックした。あくまでも時間稼ぎだ。
このままジュディを残しておくわけにはいかない。ジュディの生体を診察したが、すでに組織は破壊され再生出来ない状態だった。サイボーグボディだけでも救ってやらなければいけない。しかし、サイボーグのままのジュディでは、すぐにまたバリーに拘束されしまうだろう。
・・・と、ブライアン技師は名案がひらめいた。
さっそく、彼は庫内の操作パネルからフラッシュメモリーを探し出してきた。彼は国家資格を持ったデジタル・インストーラーである。人間の意識のデジタル化やサイボーグボディへのインストールに特化した技術の持ち主なのだ。サイボーグボディからデジタル意識を取り出して、フラッシュメモリーに一時保存するくらいはお手のものだ。
ジュディのボディからデジタル意識を圧縮してフラッシュメモリーに転送し一時保存する。そして、生身の人間に戻ったブライアン自身が、フラッシュメモリーを持ち出すということだった。ボディショップから安全に彼女を連れ出す方法はこれしかなかったのだ。バリーや他のサイボーグスタッフたちは、生身の人間には手出しできないからである。
そして、ブライアン技師はフラッシュメモリーをポケットに忍ばせて、何食わぬ顔でメイとともにボディショップを後にした。
バリーが後ろから
「ジュディは何処だ?」
「ジュディは、ジュディだよ」
ブライアン技師は意味不明の言葉ではぐらかしその場を立ち去った。
ジュディの意識は消えていた。
そして、フラッシュメモリーから発せられたデジタル信号が彼女のボディに届いた。
次にジュディが目覚めたのは全く別の場所であった。そして、自分のボディを改めて見つめなおしたとき、どこかが違っていた。そのボディはジュディの以前のボディと酷似していたが違和感を感じた。
ベッドのそばにはブライアン技師とメイが付き添っていた。
「やぁ、お目覚めだね。新しいボディの着心地はどうだね?」
ブライアン技師がいきなり切り出した。
「私・・・生まれ変わったの?」
「新しいボディをプレゼントするよ。不満があっても文句は言わないで・・・」
ジュディの意識は新しいボディに移されていたのだ。
ジュディはブライアン技師に尋ねた。
「ここはいったい何処ですか?」
ボディショップから逃げ出した後、ブライアン技師は友人を頼りに、事情を話すと助けてくれていた。
ブライアン技師は友人の経営する火星のボディショップで働くことが決まったのだ。ジュディは、祝福するが、地球を離れるブライアン技師に寂しさを覚える。そして、ジュディは今では1型サイボーグとなってしまった自分の将来を考える時だと悟った。
「永遠の命の代償は大きい」とバリーの言葉がよみがえってきた。普通の生活ができるだろうか?
もうスクールには戻れない。戻れば、嫌でもバリーと接触するだろう。スクールは退学して、1型サイボーグとして新しい人生に挑戦するのも悪くはないかも・・・と思い始めていた。
そのことをブライアン技師に話すと、
「もし良かったら・・・君の力を貸してほしい。私と一緒に火星のボディショップで・・・」
ジュディは驚くが、同時に新しい冒険に興奮している自分を発見した。メイは渋々ながら承諾してくれた。
「ジュディが地球からいなくなると寂しくなるわね。・・・でも、ジュディを追っかけて私も火星に行くよ!」
数日後、ジュディはブライアン技師に案内され停泊中の宇宙船に乗り込み、地球を後にすることになった。
行く先は火星。
火星は、ジュディの新たな旅立ちを待っていた。
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