抵 抗
抵 抗
メイは生身の人間だ。サイボーグ同士の抗争に巻き込まれないように逃げまどっていた。もっとも、メイに対してはサイボーグであるバリーは手出しできない。だが、ジュディはブライアン技師と協力して、バリーと戦うことを選択していた。ジュディは自分のボディの能力を駆使して、バリーのハッキングを阻止することができていた。
「ブライアン技師、私のボディに知らない力が働いているわ!」
ジュディは隙をみてブライアン技師に尋ねた。
「心配ないよ。私が君のボディに細工しておいたのさ」
それを聞いていたバリーはますます心の怒りを炎上させた。
「ブライアン・・・裏切ったな!」
このハッキングを阻止する能力は、ブライアン技師がジュディに施術する際に仕掛けておいたものなのだ。バリーがジュディのボディにマルウェアを仕込んでいたことを知ると、バリーからジュディの施術を依頼されたとき、ブライアン技師は逆にひそかにマルウェア対策を施していたのである。
ブライアン技師は自分のボディの武器を駆使して、バリーのボディを攻撃する。ナノポッドは相手が人間以外であれば発動しないのだ。生身の人間に対してのみ反応するのである。だから、1型2型を問わずサイボーグ同士の争いには無効なのだ。
バリーは二人の攻撃に苦戦していた。
二人の攻撃能力とは、ビームだ。ビームは手のひらから発射されるパラライザーである。神経を麻痺させるビームであるが、相手がサイボーグにも有効だ。サイボーグといえどもヒューマンセンスが機能しているからである。これをバリーは仲間のサイボーグボディーに装備させていたのである。もちろん違法である。
バリーは二人を相手に苦戦していた。
バリーは叫んだ。
「D・M・ウイルスを使う時だな・・・覚悟しな!」
最後の抵抗として、自分のボディからデジタル・マインド・ウイルスをまき散らそうと考えていた。バリーは二人の電子化されている意識に直接作用するウイルスを照射しようとしていたのだ。最強にセットされたデジタル・マインド・ウイルスの照射を受けると速攻で「死」をうけいることになる。
それをいち早く察知したブライアン技師はバリーから逃れるために、ジュディを促して別室めがけて走りだす。
その別室とは、顧客の生体が冷凍保存されている場所。入り口が閉まると中からロックをかけた。ブライアン技師はジュディを元の体に意識を戻そうとするが、時間がない。
「ジュディ、これから君の生体を解凍して意識をもとに戻すよ。人間に戻れば彼は手出しができなくなる」
「そんな時間、あるの?」
「ギリギリだろう!バリーがロックを解除する時間しだいだ」
ジュディはブライアン技師に感謝し、彼にも生体に戻るように言う。
「ブライアンさん、ありがとう。あなたも元の体に戻ってね!」
ブライアン技師は忙しそうにパネルを操作しながら、
「そうするよ。僕はもうバリーにはついていけない。ジュディ・・・こんなことに巻き込んでしまってすまなかった。人間に戻ったら、幸せを見つけてくれ!・・・もうすぐセッティング完了だ。そこのベッドに寝ていてくれ」
ブライアン技師はジュディに謝罪し施術用ヘルメットをかぶせた。彼女に幸せになるように告げると、自分の生体の保管場所に急いだ。自分もベッドに横になった。
バリーは扉のロック解除に成功して入室したとき、真っ先にジュディの生体保管場所に近づき、解凍を阻止してしまった。さらに、生体をバリーは無残にも破壊しようとしていた。
「ジュディ、よく見ておけ、今からお前の生体を破壊する!」
バリーは、ジュディの生体を失くせば、1型サイボーグとして生きるしかなくなることを望んだのである。
ベッドに横になっていたジュディは、バリーによって自分の生体が破壊されるのを目の当りにしようとしていた。ジュディはもう覚悟を決めた。
ジュディは生体が破壊される寸前に、メイやブライアン技師、スクールの友人たちや両親との思い出や様々な感情をベッドの上で振り返っていた。これまでの人生の経験が走馬灯のように頭の中をよぎっていった。ジュディは自分の選択や運命に悔いはないと思った。後悔はしない。
ジュディは自分のサイボーグボディを受け入れ、そして、人間としての自分の短い人生を謳歌したことを誇りに思う。ジュディは笑顔で目を閉じて、バリーの蛮行を受け入れようとしていた。
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