ベンちゃん~父の上司
父の上司
「ねぇねぇ・・・遊びに行こうよ」
外の世界を早く見てみたいという欲求をこらえきれなくなっていたベンちゃんは、トミーにせがんだ。
「ちょっと待って、友達を誘うから・・・」
トミーはクラスメートにメールしてみた。OKの返信をくれたのはトミーの父親の会社上司の息子である。同じ小学校の同級生だ。トミーはベンちゃんとエアカーに乗って同級生の住む高層マンションに向かった。もちろんエアカーは完全自動制御だから子供でも一人で乗車できる。エアカーは今では家電製品と同じ扱いになってしまっていたのだ。
ところでベンちゃんはいったい誰かということであるが・・・
トミーが初めて自作したAIロボットなのだ。
今の時代興味とやる気があれば誰でもロボットを自作できるのだ。組み立てが完成したらAIに学習させるのであるが、従来の技術では不可能だったレベルのパフォーマンスを達成できるようになってきたのはディープラーニングのおかげである。
トミーは本体の完成後3日かけてベンちゃんをディープラーニングさせた。ぎこちなかった会話もスムーズにこなせるようになった。さらにトミー自身のものの見方や考え方の基本をベンちゃんに学習させた。つまり、トミーが普段感じていることや興味のあることへの接触の仕方をそのまま表現できるようになったのである。いわばトミーの分身みたいなものだ。
そして今日は、はじめてトミーの友人にベンちゃんを公開する日なのである。
トミーとベンちゃんは同級生エルモの部屋に招き入れられた。
ベンちゃんは見るものすべてに興味津々で好奇心旺盛であった。ベンちゃんの身長はトミーよりかなり低い。目は大きく姿かたちはいかにもロボット然としていたが、もちろん二足歩行ができる。顔は愛嬌があり、声はやはりこども特有の甲高い声である。
エルモがいった、
「僕もベンちゃんみたいなロボット作りたいな」
ほどなくエルモの母親がおやつをもって部屋に入ってきた。ベンちゃんは行儀よくお礼を言ったが、ロボットはおやつを食べることはできない。それでもベンちゃんはおやつについていろいろと質問してきた。
「材料は何でできてるの?どんな味?おいしい?」
エルモが
「ロボットは食べられないから、僕は人間でよかったな」
ベンちゃんは答えた、
「でも、ロボットは人間にできないことでもできることがいっぱいあるんだよ、お互い様だね」
母親と入れ替わりにエルモの父親が入ってきた。
ベンちゃんは今度も行儀よく挨拶をしようと、
「いつも父がお世話になっております、狸おやじさん・・・」
エルモの父親が、
「狸おやじ?」
「はい、父がいつもあなたのことをそのように呼んでいます。ときに、頑固おやじのわからずや、とも言っております」
「これはまいったな・・・」
エルモの父親は務めて感情を表に出さないようにこらえていた。
トミーは・・・返す言葉が見つからなくて、はにかんでごまかすしかなかったのであった。
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