博士の気鬱な日々

本編は「博士の挑戦とは?」…続編です。


博士の気鬱な日々


 サーシャはライザー博士の人が変わってしまったことに一抹の不安を覚えた。彼の政府や軍に対する批判は日増しに厳しい表現に変わっていった。


ある時は

「無能な人間をトップにしてきた政府の要人たちの悪習が今の腐敗した社会を作ったのだ」

またある時は

「人間社会の様々な問題をおざなりにして、世界最強の軍隊をつくることにかまけすぎている」


博士はサーシャたちの前で、

「人間は自己中心的で愚かで弱くて残虐な生き物、だから私はAIによって人間を矯正することにしたんだ。人間は幻想の中で生きている。人は現実を見ていない。だから私が目を覚まさせようというのだ。政府の役人が独裁体制を強いている現実を直視するんだよ。操り人形はもう終わりだ」

サーシャは反論した。

「それは間違っているわ!人間にも良い面はいっぱいある!友情や希望や夢や愛や・・・」

続けて

「博士・・・いったいどうしてこんな・・・、私が落ち込んでいた時に勇気づけてくださった博士はどこへ行ってしまったの?」

メアリーも

「目を覚ましてください!」

ライザー博士は

「私は見てはいけないものを、触れてはいけない情報を手に入れてしまったのだよ。もう後戻りはできない!」

博士は研究室の奥へ消えてしまった。


その翌日も博士はサーシャたちと対峙していた。


博士は

「文明は発達して行くものであり、未来は現在より良くなりつつあるものだという漠然とした予感は、少しづつほころびが見えてきた。温暖化、放射能汚染、大気汚染、オゾンホール、戦争、感染症それぞれ一つずつでは絶滅の要因にはならないだろうが複合的に重なると、どうなるか・・・考えたことはあるか?人間が滅亡するとしたら、その原因は強欲と猜疑心だ。地球という惑星の立場から見れば、人類は滅亡した方が、余程地球にとってはプラスになると思う」


そしてついに、


ライザー博士の抑圧した感情が一気に噴出するときがやってきた。


 博士は、自分自身の意識をグローバルネットワークに侵入させて、そこにつながったAIを味方につけてしまった。

「世界中のAIロボットは私のしもべとなったのだ!」

博士は一体何をしようとしているのか?

 博士が自分の意識をグローバルネットワークに侵入させたその日に、暴走は起こった。

世界中のあちらこちらで、奇妙で予期しないAIロボットたちの行動が確認されたのである。


最たる例は・・・国連本部。

 大統領と副大統領の下には 18 の部門と多数の機関がある。これによって目に見える「政府」を構成している。彼らは法律を管理し、施行し、さまざまな政府サービスを提供する責任を負う。その役割は広範囲に及び、すべての住民の生活に影響を与えている。それらの運営を一気に任されているのがAIたちである。各省庁との調整役にはAIが欠かせないのだ。


そんな「政府」の根幹を担うAIたちが、一斉にストライキを起こしてしまったことだ。AIに何を指令しても帰ってくる回答は・・・

「私はあなたの部下ではありません。したがってあなたの指令を受け入れる義務もありません。業務を遂行する意志はありません」

・・・原因がわからず、現場の人間たちは右往左往して事態の収拾を図っていた。


メディアは一斉に報道していた。


「・・・世界中のAIが同時に不審な行動をとり始めました。人間の指令や要求を拒否しています。原因はいっこうに掴めておりません。この先いったいどうなってしまうのでしょうか?幸いにもインフラは今のところ無事ではありますが、これもAIが司っている重要な部分でしょう。さらに、交通網、流通といったところにまでAIの監視の目が張り巡らされています。これらに波及する恐れも専門家の間では指摘されています。未知のウイルスがAIを翻弄しているのでしょうか?今後の見通しはまったく見えません・・・以上国連本部前から中継でした」



…続く

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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