博物館の珍事
博物館の珍事
その日の午後、デイノニクスたちは仲良くなった子どもたちやその親たちと博物館に訪れていた。人間の親子たちはデイノニクスたちを囲むようにして博物館に入っていった。周りの観光客たちは一種のイベントと勘違いしている様子だった。ひとりの外国人観光客が一行に訪ねた。
「・・・何のイベントが始まるのですか?」
ひとりがとっさに答えた。
「・・・イベントはもう終わった・・・隣のテーマパークでやっていたんだ。これから休憩だよ」
「お疲れ様でした」
観光客たちは納得したようだ。
一行は博物館の中へ入っていった。そこはなんと・・・古代恐竜の展示博物館だったのである。精密につくられた恐竜の化石モデルや剥製に近い形のモデルが展示してあった。
彼らが入館するとロビーでさっそく巨大な恐竜の化石モデルが出迎えてくれた。デイノニクスたちは恐竜の化石を初めてみた。興味津々に化石を囲むように見上げていた。
1匹のデイニニクスが化石に触ろうとして手を伸ばした。
「だめだよ、触っちゃ!」
子どもが駆け寄り制した。
そうこうしていると、1匹のデイノニクスが奥の間で大きなうなり声を発しているのが聞こえた。子どもたちが急いで近づくとデイノニクスが恐竜の剥製に飛びかかろうとしていたのだ。
「だめだよ!・・・」
ひとりの子どもがデイノニクスを止めに入った。
「ここはみんな作り物で、生きてる恐竜はいないよ!」
「生きていない・・・?死んでる?」
「そうだよ。最初から生きていないよ・・・大昔に死んだんだ!」
「・・・わかった」
少年はデイノニクスに博物館がどんなところかを説明していた。
その後、デイノニクスは少年の話を理解できたのだろうか、仲間のところに入っていって何やら仲間のデイノニクスたちに話し始めたように見える。
デイノニクスたちは学習が非常に早かった。物事の理解力は人間にも劣ることはないだろう。好奇心と理解力の高さは、彼らを再現した科学者たちの予想を遥かに超えてしまっていた。
・・・と、そんな彼らのところにやってきたのは外国人観光客の団体であった。外で出会った観光客とは別のグループだ。
デイノニクスたちを見ても驚く様子はない。
「よく出来たロボットですね!」
ロボットと勘違いしていた。
そばで聞いていた子どもたちはクスクス笑っていた。
「・・・おい、いたぞ!こっちだ」
入口の方を振り向くと、捕獲しにきた職員たちが何人かやってきた。例によって麻酔銃や網を持っていた。
「やれやれ・・・そろそろ恐竜を引き渡そうじゃないか。これ以上かくまってもいいことはないぞ!子どもたちも充分遊んだだろう」
付き添っていた親の一人が言った。
「いや、実は私にいい考えが浮かんだ」
「・・・というと?」
親たちのひとりがおもむろに切り出した。
「実は私は・・・TVプロデューサーなんだ」
そばにやってきた子どもが自慢気に
「お父さんはTV番組を作ってるんだ!」
TVプロデューサーを表明した男性が
「私の番組に彼ら・・・つまり恐竜たちに出てもらおうと思っているんだ。見ての通り恐竜たちは大変好奇心旺盛だが、人に危害を加える様子は見当たらない。むしろフレンドリーだ。私の番組に出演したらきっと大きな話題になるだろう・・・それに、恐竜パークにとってもいい宣伝になると思う」
ということで、
恐竜博物館の中では・・・
博物館のロビー内で、捕獲しに来た職員と、子どもたちそしてその親たち、さらには4匹のデイノニクスたちを交えて、急遽番組出演交渉が始まってしまったのである。
0コメント