2年ぶりの投稿になります!

御年73歳になります。しばらく病気療養で投稿を休んでいました。自宅療養は継続しておりますが、この度投稿を再開します。ボチボチのペースで行きますね(>_<) 

枯れた爺さんの描く妄想…いや夢の未来社会をご賞味ください!

投稿第一弾は新作SFショートです。


課長の椅子

 バーニーは今日、朝から出勤日だ。意気揚々とエアカーに乗り込むと、静かに滑空を始めた。しかしふいに、初めてAI猫ミミィをプログラムした日の悪夢がよみがえる。

 その日は、感情チップを初期化してご機嫌モードに設定……のはずが、なぜか“狩猟モード”がオンに。ミミィはぬいぐるみを獲物とみなし、部屋中を暴れまわった。クッションは粉々、妻には「課長の椅子より先に猫の椅子をしつけてください」とメールが届き、バーニーは深夜まで謝罪と修正パッチに追われたのだった。

 現在のエアカーは家族写真のスクリーンセーバーを映しながら、東京湾上空を一直線に進む。週に二度のオフィス訪問は新鮮だが、胸の奥にはいつも緊張がある。今日は人事委員会・・・課長の椅子をめぐる最終戦だ。

 ビルに着くとホログラム受付が「お帰りなさい、バーニー課長補佐」と告げ、無表情のアリスが隣を歩く。ついこの間、アリスは「人間らしさ強化プログラム」のテストで社内雑談に参加し、部下の愚痴を数値解析しては「あなたのストレスは67.3。解決策、自己啓発セミナー受講」と報告し、笑いと絶句を同時にさらったばかりだ。

 会議室の自動ドアが開き、テーブル先端にまばゆいばかりの“課長の椅子”が鎮座している。アリスがすっと近づき、「生体認証で私は設定済みです」と報告。重苦しい沈黙のなか、バーニーは二十年分の思い出を胸に呼び覚ます。

 初めて部下を持ったときの喜び。深夜残業でカップ麺をすすった悔しさ。家では妻の微笑み、姉妹の子どもたちのはしゃぎ声、そしてようやく懐いたミミィの柔らかい体温・・・すべてがこの瞬間を支えている。

 人事委員長AIの声が響く。「推薦するのはアリスです」


 その瞬間、アリスが椅子をスルリと占拠する。質量のないボディが課長席に鎮座する光景に、職員たちは息を飲んだ。

だが声は続く。「ただし、この椅子には“人間らしさ”モジュールが必須である。バーニー課長補佐もデータ提供役として着席を」

 アリスの無機質な顔がわずかに歪み、戸惑いが芽生えたように見えた。

バーニーは微笑み、革製バッグから小さなUSBを取り出した。

「これが俺の二十年だ」

 ゆっくりとその椅子に腰かけると、ホロスクリーンが家族の笑顔の動画を再生し始めた。

 その日の午後、帰宅後、妻からのメールで、姉妹の末っ子カレン8歳の迎えを頼まれて小学校に赴いた。妻はまだ仕事から帰宅していなかったのだ。校門からカレンを連れてエアカーへ戻ると、カレンが「今日は私も操縦してみたい!」とせがむ。子供モード解除のまま飛ばされた車体は、庭に逆噴射着陸。乱暴な操縦で衝撃が走り、同乗していたミミィが大慌て、車内で毛玉ふりまき騒動に発展してしまった。

 バーニーは深いため息をつきながら、カレンに言う。

「君が課長だったら、会社が毎日墜落だね」

カレンは無邪気に笑い、バーニーの心はほっこりと温かくなった。

 誰が狙おうと、この椅子にはまだまだ書き切れないドラマが詰まっている。明日もまた、新たな予想外が待っているのだろう。



写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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