物流
3Dテレビがニュースを伝えていた。
「ついにこの時がやってきました。長い歴史の中でも大変大きな転換期を迎えるこの瞬間が刻一刻と迫ってきました。あと数分で大型貨物ドローンがここ中央集積場にやってきます。思えば、物流自体が社会インフラとして、私たちの生活に欠かせない社会基盤となってきました。電化製品、食品、医療機器など、生活に必要なモノの移動によって、私たちの生活が成り立っていました。物流は「あって当たり前」という空気のような存在になり得ていた長い歴史が今日・・・幕を閉じようとしています。物流の歴史は人類が発祥して一度も途絶えることはありませんでした。物流の持つべき役割は、生産者とそれを必要とする人の間をつなぐことです。人類史上この普遍の法則が根本から覆るのです。もう物流そのものが不要となってしまうのです。・・・あっ、最後の貨物ドローンが・・・本当に最終の貨物ドローンがついにやって来ました」
少々興奮気味に伝えるニュース速報に思わず聞き入ってしまったレーナは食事中。
「輸送食品はこれで最後ね。これからは嫌でも転送食品を買うしかないわね。転送食品って本当に大丈夫かしら」
輸送食品と転送食品について説明しなければいけませんね。
輸送食品はその名の通り貨物ドローンで生産者の元から運ばれてきた食品。それに対して転送食品とは、開発が進んでいた物質転送機を使って「物資」を転送する技術を応用して食品なども安全に転送できるテクノロジーである。数年前から実用化できていたのですが、消費者の間では安全性に疑問を抱く人も少なくありませんでした。もちろん生身の人間はいまだに転送できません。というか、安全面で禁止されています。
物質転送の技術とは、2つの粒子はどんなに遠く離れていようとも、量子が絡み合った状態では一方の変化が一瞬の内に他方の粒子に伝わるというものです。この現象を利用して量子状態を転送することができるのです。B地点で量子状態が再現されるとA地点の量子状態は消えてなくなるため、実質転送したことになります。物質とは量子状態の複雑な組み合わせのことなので、量子状態を転送することは物質を転送することと同じなのです。
しかし、人間が口にする食品に対しては、理屈では転送先で再現された食品は同じものと分かっていても心理的に嫌なものです。人々がこれに慣れるには少々の時間が必要だったのですね。だから、食品の包装に輸送食品であるか、転送食品であるかが明示されていたのです。どちらを購入するのかは消費者が自分で判断して購入していました。
大昔、遺伝子組み換え作物が人体に害を与えるのでは、という不安から敬遠する人々がいたそうですが、ちょうどそんな話とよく似ていますね。
食品以外はほぼすべて転送製品が主流になっていました。生産工場から各地の集積場を結んで転送され、集積場から量販店に転送され、量販店から各家庭にネット注文で即転送されるのだ。
このネットワークは輸送という物流ネットワークをそのまま利用している。輸送が転送に変わっただけである。そして、今日からすべての食品も転送に加わり、物流そのものが終焉を迎えることになったのである。
レーナはいままで輸送食品しか食べていなかったのです。無害であることは承知しているのだが、なんだか気分的によくないのである。でもこれからは選ぶことができない。いやでも転送食品を食べることになる。レーナはさっそく転送食品を食べてみる決心をし、すぐにネット注文することにした。
3Dテレビに向かって話しかけた。人気のスイーツ一覧が目の前に現れる。お気に入りのスイーツチーズケーキを注文。数秒後に転送室にはそのギフトボックスが現れた。この転送室は食品以外の物資や家電を転送に使っていた。輸送食品はショップに輸送指定で注文していたので少々時間がかかっていたが、転送だと数秒で届くのだ。
まさに食べたいときに注文即食べることができる。これはいい!
「食わず嫌いってこのことね?」
レーナはチーズケーキを食べながらつぶやいた。
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この度、過去にブログで紹介した記事を元に再編して書き下ろした「誰にも教えたくない写真上達法!パート1~4を出版しました。著者ページは以下のURLよりご確認いただけます。(なぜかPCでのみ閲覧可能)
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