麻薬探知犬

 今日も大勢の客が到着した。入港ゲートには大小さまざまな荷物とともに審査待ちの旅行客があふれている。ビジネスで訪れた者、旅行の団体、個人の出稼ぎ労働者や子供を連れた家族旅行者たちだ。入港手続きは、IDチップがあれば身分証明できる。銀河市民が身分の証明に用いる小型のチップまたはカードのことである。星間旅行ではこれを携帯すように義務付けられている。地球でもIDチップを検知するためのセキュリティ・チェックポイントが設けられている。

 一時このIDチップを偽造して入港を試みた犯罪者たちがいたが、セキュリティ強化の甲斐あって偽造は難しくなっている。偽造してまで入港しようとする目的の多くは密売だ。麻薬・違法薬物の密売が目的だ。いつの時代になっても違法薬物はなくならない。薬物の種類も膨大だ。何しろ一つの惑星だけのものじゃなく、星間通商で取引のある惑星すべてが違法薬物の温床になっているのである。そして最近では犯罪歴のない全くの素人密売人が横行していた。というのも、IDチップの偽造が難しくなり組織の中枢は表には出ず、安い依頼料で素人の売人を使うようになったのだ。

IDチップのスキャンが終わるとセキュリティ・チェックポイントから続々と大きな荷物や小さな荷物とともに旅行者たちが一列になって何かを待っている。数十人もいる検査官が連れているのが麻薬探知犬だ。一般的に犬の嗅覚は、人の一億倍まで感知できるといわれているが、臭気の種類によっても違ってくる。果たして犬の嗅覚は今の時代、一惑星だけでなく銀河系中の星間通商の惑星までも含めた膨大な違法薬物を見分けられるのだろうか。

一人の婦人のところに検査官とともに探知犬がやって来ました。それほどみすぼらしくはないが、高価とは言えない衣服に身をつつみ、ちょっと体格の良い中年の婦人は、何食わぬ顔で検査官に、

「何も怪しいもんは持ってやしないよ」

「そうですか、でも規則ですから。すぐに終わりますよ」と検査官が応じた。

「探知犬なんかに見つかるもんか・・・」

その婦人は内心穏やかではありません。彼女は実は素人売人でした。彼女は惑星マップからやってきた。地球から数光年先の地球によく似た惑星だ。だから彼女自身も地球人と見分けがつかない。売人が密売先に選ぶ惑星は売人自身が目立たないことが重要なのだ。

 探知犬のことは組織から聞いていた。地球では探知犬をいまだに使っているから、絶対に大丈夫・・・そう聞かされていたのだ。多くの惑星はスキャナーでスキャンするタイプの探知機だったり、スキャンのための通路を通過中に探知するようにできている。探知犬はユニークだ。

突然探知犬が検査官を見つめながら座ってしまった。

「ちょっとこちらまで来てもらえますか?」

捜査官は婦人にやさしく尋ねた。

「何なの、もう終わったんでしょ」

婦人はさっさとこの場を去りたがっていた。

「探知犬が反応したんですよ、この荷物の中を詳しく調べさせて下さい」

探知犬が座ると、それが違法薬物を見つけた合図なのだ。

「犬なんかに分かるのかい?何億何十億もの薬物を見分けられるとは思わないね。ちゃんとしたスキャナーで調べたらどう?騙すんじゃないよ」

婦人はあくまでも強気だ。

 捜査官には自信があった。探知犬が間違えることはない。最新型のスキャナーよりもさらに強力な嗅覚を持っているのがここで働く探知犬たちなのである。

 犬本来の嗅覚に加えてAIに備わった臭いセンサーの融合でさらに数百倍の威力を持った探知犬なのだ。分析はAIが担当。正確さはどこの惑星のスキャナーよりも優れている。だから地球の薬物捜査はいまだに「探知犬」というスタイルにこだわっているのです。

 見た目は「普通の犬」だけど、AIと合体したサイボーグ犬なのです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


この度、過去にブログで紹介した記事を元に再編して書き下ろした「誰にも教えたくない写真上達法!パート1~4を出版しました。著者ページは以下のURLよりご確認いただけます。(なぜかPCでのみ閲覧可能)

https://www.amazon.co.jp/-/e/B08Z7D9VXK


写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

0コメント

  • 1000 / 1000