SOスマートシティ (Senior only smart City)

 世界では、21世紀後半には60歳以上の人口が20億人に増加した。これは高齢化社会が人々に与える影響を深刻に受け止めるきっかけになったのだ。古くからシニア専用の住宅、賃貸住宅、駐車場などはあった。21世紀後半に入る前には、社会のなかで年齢分離はより顕著に進んでいました。シニアたちが孤立した生活を強いられ、より多くの感染リスクにさらされ、年齢由来の疾患に怯え、長年培ってきたスキルの喪失が懸念されていた。シニアたちが情熱を追求し続けるために、AIの力を借りることを提案してSOスマートシティは生まれた。いわば高齢者専用の都市だ。

 そこではアンドロイドたちが働いている。都市という環境は、高齢者が通常の活動を続けるためには複雑な空間である。このような環境ではシニアは四六時中途切れない助けを必要としている。皮下IDチップを埋め込むことで、シニアの状態を途切れることなく監視できる。皮下IDチップを使ってバイタル異常を知らせ、心理的な障害を検出し、薬の補充、飲み忘れ、飲みすぎ防止、住居の管理までも一括して集中管理できる体制を整えることができた。皮下IDチップとアンドロイドたちが連携することで可能となったのである。ロボットはいない。なぜなら、シニアの話し相手になりえるのは人に酷似したアンドロイドのほうだ。

ジョージはここに来て7年になる。彼ももう100歳を超えてしまった。多くのシニアたちの悩みの種があった。そのひとつが高齢者の便秘の多くは、大腸の動きが弱くなる弛緩性だ。腸を動かす副交感神経の働きは加齢とともに低下し、「腸管バリア機能」が低下して免疫力が下がり全身にさまざまな影響が及ぶ。ジョージもここ数年便秘で悩んでいた。

 ところが最近新しいテクノロジーが開発された。腸内に便を分解する遺伝子組み換え微生物を挿入するためのナノテクノロジーが彼らを便秘から解放したのだ。人間は昔のようにもはや排便しなくなったのである。これは人間社会に与える恩恵が大きかった。

 ジョージは小川のせせらぎを一心に見つめている飼い猫トムの後ろ姿を見ていた。魚を捕まえようとしているのかな・・・右へ行ったり左へ来たり、忙しそうに水の中を覗き込んでいる。突然、トムが水に飛び込んだ。あっ!・・・と、その時娘のジェーンが慌ててそばにやってきた。「お父さんどうしたんですか?」

「トムが水に飛び込んだ」

「何言ってるんですか、トムはもう5年も前に死んだでしょ」

その時・・・猫のトムが布団の上に乗ってきて盛んにジョージの顔をなめ始めた。トムはいたって元気だ。いつまでも舐められているとほほが痛くなってきた。猫の舌はザラザラなのだ。

「トムもういいだろ。やめてくれないかい」

「ニャー」

・・・最近よく夢を見る。シーンが替わって別の夢が始まる。

皮下IDチップからの情報を受けとった娘のジェーンによく似たアンドロイドがジョージのところにやってきた。

「大丈夫?」

「ちょっと夢を見てた」

猫のトムが布団から顔を出した。

「あら、あなたもいたのね、お父さんをちゃんと見ててね」

「ニャー」

トムは答えた。トムは本物そっくりの猫型ロボットなのだ。

ジョージの娘を模したアンドロイドは時々本物と入れ替わるが、トムはあくまでも猫型ロボットだ。でも彼は娘にも猫にも何の疑いもなく接していた。多くのシニアは近親者のアンドロイドに囲まれて生活している。

・・・・・・・・・・・・・・・

この度、過去にブログで紹介した記事を元に再編して書き下ろした「誰にも教えたくない写真上達法!パート1~4を出版しました。著者ページは以下のURLよりご確認いただけます。(なぜかPCでのみ閲覧可能)

https://www.amazon.co.jp/-/e/B08Z7D9VXK

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

0コメント

  • 1000 / 1000