仮想都市

 人類は飛躍的な発展を謳歌していました。人々はサイバネティック・アバターのおかげで、居ながらにして様々な体験が出来るようになり、宇宙旅行が若者や高齢者の間でトレンドになった。さらにヴァーチャルリアリティ(VR)技術の発達で、仮想スタジアムでスポーツ観戦したり、視覚や聴覚だけではなく、触覚や嗅覚などの感覚までも再現してしまうので人々はカウチポテト族と化していた。その一方で、人間の活動範囲の制限がなくなり、仕事の場所は人体の中から宇宙まで際限なく広がっていた。

 人の活動領域を今よりも飛躍的に拡大するためには、人に代わって自律的に活動するロボットが必要になってきた。宇宙空間や深海、人体や動物の中など未知の領域に挑戦するために、サイバネティック・アバターとVRを融合させて、アバターの体験をVRでリアルに再現するのだ。100年以上前のアナログ時代では想像すらできなかった世界だ。

 そんななか、人の移動手段は空飛ぶ車(ドローン型)が実用化され、交通法も完全に「地上」から「空」へ変更された。あらゆる都市機能が変更を余儀なくされた。東京一極集中の意義はなくなり地方分散型になっていった。災害リスクを考えてもそれは正解だった。都道府県制度の崩壊と州制度の誕生。そして州制度はそのまま都市機能を内包した。

亮は今日もアバターを使ったリモートワークだ。

官公庁は市町村をすべて集約させて一括管理体制に入っていたが、実務のほとんどは、人間のように自律的に判断し行動し、学習も人間のように自律的に行い、さらに学習したものを発展させることができるAIロボットが担っていたのである。

アバターが学習した知識や体験を分析修正するのが亮の仕事だ。しかし、アバターの仕事量は膨大だ。人間ではとてもさばき切れない量の情報をAIはいともたやすく処理していく。所詮人間の出る幕じゃないことは十分に分かっていた。そこへ口出しできるほどの人間がいるとは思えない。AIが誕生してわずか100年ほどであるが、実質的に行政、そして国を動かしているのは自律型AIロボットなのだ。

 分析修正するといっても、実際分析するのも別のAIだ。AIの分析が正しいかどうかを判断するのが亮の役目なのだが、分析結果を信用するしかないのが実情。ただそこに人間が介在したという事実だけが必要な状態になっている。それで人間たちは納得するのだ。

 AIが面と向かって人間を支配しているわけではない。だから人間たちも気づかぬふりをしているのかもしれない。一国の首相は人間だ。でも首相の判断のもとをたどればAIにたどり着くのである。カウチポテト族と化した人間たちにもはや国を動かす強力な推進力はない。退化の一途をたどる人間と進化し続ける自律型AIロボットの主従関係の逆転が始まっている。

 亮はふと思った。

「良きにつけ悪しきにつけ、これがAIによる仮想都市なのかもしれない」

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写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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