ライザー博士の秘密

 21世紀中期には教育は完全にオンデマンド形式に移行した。昔のようなの形の大学は存在しない。

 世界中の人々がインターネットにアクセスできるので、学校はどこからでも学習者をサポートする仮想教育環境に置き換えられてる。基本的にAIが授業を行うが、学生は指導方法を選ぶことができる。必要に応じて教わる教材を完全に理解するのに役立つAIの家庭教師を持つことも出来ます。実体験が必要なら直接教師の下を訪れることもできるが、多くの学生はVR(バーチャルリアリティー)とサイバネティックス・アバターを使った疑似体験を選ぶ。

 学生たちは強制された学習ではなく、自主性を最優先に学びを深めていく。昔のような点数で評価する方式の教育は一切ない。教育現場では単位を取得させる教育方法は非効率的であることが常識となった。学生たちは自分の得意分野を見つけることから始めるのだ。得意分野が見つかればそれを伸ばすことで、欠点が補われることを学びます。

私はいったい何をやりたいんだろう。サーシャはつぶやいた。ロボット工学、生命科学、サイボーグ技術、医学・・・そうか私は サイボーグ技術 に興味があったんだ。

 21世紀後期に生まれたすべての赤ちゃんは、臍帯血から幹細胞保存が義務化された。組織工学の技術は、幹細胞から任意のタイプの体細胞を作成し、任意の臓器を再現することを可能にした。だが、サーシャが生まれた当時はまだこの恩恵を受けることはできなかった。サーシャは幼少の頃、ドローンの飛行事故で身体の多くの部位を代替え臓器で補った。それは幹細胞からの再現ではなく、ロボット工学のおかげであった。サーシャは両眼と両足、右腕、その他いくつかの内臓器官を代替えしなければいけなかった。しかし、幼い身体の成長は早く、止めることはできません。一時的に代替えしても、体の成長に追いつくような、つまり宿主に合わせて成長する代替え臓器はなかった。その後内臓器官は幹細胞治療に切り替えたが、両足と右腕は 相変わらずロボット工学のお世話になっていた。ひとつ救いがあった。昔のようないかにも義手です、義足です、という姿かたちのものではなく、見た目全く区別がつかないことだ。これはサイボーグ技術のおかげである。

 サーシャはこのサイボーグ技術に強く惹かれている自分に気がついた。この分野はまだまだ進歩する。人間の身体能力を極限まで高めることができるだろう。

 ふだんはAI教師が相手なのだが、ある日サーシャはサイボーグ技術の権威であり、オンデマンド学習の教師ライザー博士に直接会うことを許された。

「サイボーグ技術は将来どうなると思いますか?」

「私はあくまでも平和的利用を望んでいるのだがね」

「それって、どいうことですか?」

「生身の人間の脳をAIロボットに移植するんだよ。本来は、人間の臓器の代替えが目的だが、逆にAIロボットに人間を移植しようとしている・・・というか移植した」

「えっ・・・」

「不死への挑戦だね。だけど私の研究内容を軍と政府が注目しているのだよ」

 ロボット工学とサイボーグ技術の融合は、ある懸念を生み出した。軍需産業に発展するおそれをライザー博士は指摘した。

「私のこの研究は絶対に政府や軍には渡したくない。君はアンドロイドが何かは知っているね」

人に酷似したロボットだ。これもロボット工学とサイボーグ技術の融合のひとつ。

「この研究は一人ではできない。多くの協力者が必要だ。そのおかげで、私は心臓と脳は生まれたままだが、体はアンドロイドなのだよ」

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この度、過去にブログで紹介した記事を元に再編して書き下ろした「誰にも教えたくない写真上達法!パート1~4を出版しました。著者ページは以下のURLよりご確認いただけます。

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写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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