世界通貨

 世界は1つの通貨で経済が実行されるようになった。それを使用するために識別チップが必要になった。誰もが出生時に識別チップを割り当てられ、これは新しい形式の識別と価値観と通貨を私たちにもたらした。このチップなしでは何かを購入し、または販売することはできない。このチップがあることで、物を購入することがより安全で便利になった。

 世界通貨が一つになったきっかけは今から5年前だ。世界が一つにならなければならない大きな歴史上の遭遇があった。西暦2069年の出来事だ。人類は長い間彼らに監視されていたのである。

 彼ら・・・とは、ヒューマノイド型異星人である。彼らや地球をはじめ多くの文明を持つ惑星が存在していたが、ヒューマノイドはいうまでもなく人間(地球人)そっくりの宇宙人であるが、ようやく彼らの間で通商を許されるほどの文明に達したとの認識が確立したのである。そこで、彼らは地球へやってきたのだ。「黒船来航」といって、大昔 の日本での出来事を引き合いに出す歴史家がいた。1853年に、ペリーが率いるアメリカ合衆国海軍東インド艦隊の蒸気船2隻を含む艦船4隻が、日本に来航した事件のことだ。国連本部(いまでも世界組織の本部はニューヨーク市のマンハッタン東部にある)の来館者へのサービスとして、いまだに国連ガイドツアーが毎日実施されているが、その中にヒューマノイド型異星人が紛れ込んでいた。彼らの宇宙船こそ見ることはできなかったが、国連の要人にメッセージを伝えてきたのだ。彼らとしては、地球人をいたずらに脅かすような行為は避けたかったのだろう。

 もちろん異星人の存在を公表することに紆余曲折はあった。地球人は宇宙で孤独ではないことを知り、異星の文明、テクノロジー、慣習、社会、政治、産業、そして特に商業の新しい可能性について、できる限りの情報を収集していった。それから5年後、本格的な星間通商が始まった。遭遇から3年かけて世界通貨を統一した。そして地球標準語は「英語」となった。

 出生時の識別チップという技術は異星のテクノロジーを見本にした。地球の技術革命は飛躍的に進歩したのは言うまでもない。通商相手は基本的にヒューマノイド型異星文明人だ。進化段階の違いすぎる種族の文化や習慣は馴染まないからだ。でも、中には非ヒューマノイドと通商を試みる連中もいる。

 星間ゲートというのはいわゆるスターシップとは違って、宇宙空間に設けられた巨大な宙域で排他的経済宙域といったような所なのだが、その宙域に設けられた巨大な施設で、ここは星間通商をはじめ多くの異星間取引が行われている。実際に宇宙船が他の惑星に着陸することはなく、この星間ゲートに駐留するのだ。当初は母星の重力や環境の違いから直接惑星に訪問できない異星人たちのために設けられた施設で、多くの惑星の特産物やテクノロジーを紹介しており、いまでは異星間交渉のための重要な役割を担っていた。

 ジミーは異星人のヤンと星間ゲートの中にいた。ヤンは惑星ドジャーの工芸品を多く扱っている商人だ。アクセサリー、キレイなレースカットのグラス、地球のテキーラによく似た味のお酒、民族衣装、陶器などドジャーの工芸品は地球ではマイナーだ。でも、ドジャーへ行った旅行客は間違いなく現地の工芸品を高く評価している。ジミーはこれらをできるだけ安く仕入れようと交渉していた。地球での販路開拓をスムースに展開する強力な武器は独占販売権だ。

「ヤン、君のところの品を独占販売させてくれ」

「ノー、君だけを相手にしているわけじゃないからね」

「無理なお願いかよく考えてくれ。君は多くの惑星間通商を手掛けているよね。地球で君と通商しているのは何人だい?よく考えて」

ヤンは少し黙っていたが、

「せいぜい2~3人だな」

「だろう・・・でも地球以外なら今まで通りの通商を続けられるよね」

「分かった、了解だ!」

 彼は早速腕輪に向かって何やら話しかけた。値段の交渉が進み、3Dに映し出された見積もりにジミーは納得して識別チップが埋め込まれた手のひらをかざしてサインした。ヤンも同様にサインした。

 ジミーの識別チップは地球の通貨だが、ヤンの識別チップは惑星ドジャーの通貨である。双方がサインすると、為替レートを自動的に計算してくれる優れものだ。もちろん星間通商に加入している全惑星の通貨にも対応できる。

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この度、過去にブログで紹介した記事を元に再編して書き下ろした「誰にも教えたくない写真上達法!パート1~4を出版しました。著者ページは以下のURLよりご確認いただけます。

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写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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