ユニバーサルベーシックインカム

 主に産業、商業、農業の自動化によって生み出される事業収益の一部の課税を通じて資金提供されているのがユニバーサルベーシックインカムだ。最初の継続的な支払いは、全世界で22世紀初頭に一般に公開された。一つの世界通貨がもたらした恩恵の一部である。地球は星間通商の必要性から世界通貨を統一した。星間通商に加盟する惑星は一定以上の文明に達した惑星だけである。

 異星の優れたテクノロジーを導入して、産業、商業、農業は飛躍的に進歩した。特に農業は自給自足の最前線だ。ゴミ処理や食料調達など、生活に必要な雑事を自給自足で行う施設の完備が都市レベルで可能になった。AIの発達によって、ほぼすべての生活必需品は自動的に配送され、人々は在宅ワークによってほとんど外出しない生活を送ることもできる。実質的な企業経営のトップはAIにとって替られた。AIの提言は世界中の経済活動にまで及んでいた。継続的安定のためには経済格差の是正が急務とされ、AIの進言をもとにユニバーサルベーシックインカムが導入された。

 ユニバーサルベーシックインカムの導入で、少数の堕落する者たちはいたが、多くの人々は失敗を恐れずに挑戦できるバックグラウンドができたと喜んだ。その結果、経済は急速かつ安定的な発展をとげて、更に治安の維持にも多大な効果をもたらした。貧富の差が急速に縮んだのが要因だ。星間通商の相手からもおおいに歓迎され、これを母星に導入する動きまで現れた。

 

 それから100年の時が流れ、今は23世紀だ。私たちが暮らす銀河系には、地球に似た条件の惑星が3億個以上ある。そのうち5,000個の惑星に知的生命体が存在し、星間通商に参加している惑星は1,000個を超えた。100年以前は星間紛争が耐えなかった。大きな要因は領域の拡大だが、経済的優位と影響力の行使が目的であった。しかし、今は宇宙はかつてないほどに平和的だ。

 平和の維持に貢献したのは、地球を発端とするユニバーサルベーシックインカムを宇宙的に広げた、まさに全銀河(ユニバーサル)のベーシックインカムだ。惑星間の格差の是正を推奨して銀河連合が、星間通商による惑星収益の一部を課税して分配させたのである。ユニバーサルベーシックインカムに反対する種族もいたが、銀河は徐々に一つになりつつあった。

 一つになるきっかけはどんなケースでも同じだ。遠くアンドロメダ星雲がある。地球から200万光年の距離だが、ここにも我が銀河系同様の知的種族の存在が確認されたのだ。実際の接触はまだ確認されていないが、それは時間の問題。その時のために銀河連合の早期の統合を目指していたのである。

 宇宙艦隊所属のミーシャは銀河辺境の惑星ドメインを調査中に奇妙な青年を見つけた。ヒューマノイドのその青年はどう見ても原住民ではなかった。彼は驚く様子もなくミーシャを見据えていた。

「君の名前は?」

ミーシャは答えようとしたが、彼の言葉は聞こえなかったのだ。頭の中で感じたのである。

「ミーシャ」とだけ心で思った。

「ミーシャ・・・いい名前だね」返事と思える感覚を覚えた。

「これはテレパシーだよ」

続いて送られてきたイメージがあった。彼の名はシャローといい、遥か遠い銀河から来たという。そう・・・アンドロメダから。彼らの銀河文明は崩壊の危機にあった。テクノロジーは進んでいたが、いくつもの種族が領有権を争って抗争を繰り返していた。たくさんの惑星が破壊された。多くの故郷を失った難民は星々を転々とし、一部の難民たちは私たちの銀河系のすぐ近くまで逃れてきた。君たちの力を借りにきた、名案を教えてくれ・・・

 ミーシャはすかさずユニバーサルベーシックインカムのイメージを送ってやった。礼を言った彼がそれを持ち帰ったことは言うまでもない。そして彼らが平和を築く日までに更に100年かかった。

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この度、過去にブログで紹介した記事を元に再編して書き下ろした「誰にも教えたくない写真上達法!パート1~4を出版しました。著者ページは以下のURLよりご確認いただけます。(なぜかPCでのみ閲覧可能)

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写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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