恐竜再現

 約1億5000万年前に、恐竜から鳥が生まれた。今いる鳥は、ティラノサウルスのような肉食恐竜のグループから進化したことがわかっている。昔は恐竜といえば、ウロコにおおわれた地味な爬虫類のイメージだった。多くの恐竜や、翼竜、海に住む爬虫類などは絶滅したが、鳥類、哺乳類、ワニ・カメなどは生きのびることができたが、それはなぜか。


 遺伝学者は絶滅した生き物を取り戻す能力を持つことを考え始めた。絶滅した生物は徐々に自然に再統合されると信じて。DNAは数十億年にわたり、生物の遺伝情報を伝える役割を果たしてきた。DNAには、いつどのようなタンパク質を合成するかという指示が含まれている。しかし、この情報はどれほど長く存在しうるのだろう? 生命を形作るために重要な情報の全てをまとめてゲノムと呼んでいる。生き物において全てのパーツ(遺伝子)の設計図がゲノムということだ。ゲノム編集そのものは古くからおこなわれていたが、 このゲノムを1から設計するために、遺伝学者たちは量子コンピュータを駆使した。


 あなたはジュラシックパークを思い浮かべたはずだ。ジュラシックパークは本国から遠く離れた孤島にあるが、こちらは都市部の郊外に建設されたアミューズメント施設であり、映画の中の出来事ではなく現実だ。実際の恐竜たちの姿は鳥のようにカラフルな羽毛をもった恐竜やティラノサウルスのような肉食恐竜もいる。その身体のサイズも、ニワトリほどの大きさのものから、最大のものは竜脚類だ。その中でも判明している範囲ではスーパーサウルスが最も大きい。子供を育てる、群れを作って共同で生活をするなど、現在見られる哺乳類動物と類似する社会性をもった恐竜もいた。


 来館者はいない。なぜかというとその必要がないからだ。VR(バーチャルリアリティー)とサイバネティックス・アバターを通じて自分の家に居ながら観賞できるからだ。触覚や嗅覚などの感覚までも再現してしまうので体験者は大満足する。だが、現実に見られる恐竜の皮膚や羽毛の色模様は全て現生爬虫類や鳥類から想像されたもので、実際の皮膚がどんな色だったかは、ほとんど不明である。なので、ここに生息する恐竜たちは遺伝学者たちがゲノムを設計する段階で想像したものに過ぎない。


 メイは友人二人とこのアミューズメントパークを訪れていた。もちろんアバターである。スーパーサウルスに圧倒され、約2億2,800万年前に生息していた最古の恐竜、体長約1メートル、小型で軽量な体躯の持ち主エオラプトルの軽快な行動に驚き、自動運転ポッドからの眺めを楽しんでいた。彼女たちが次にやってきたのは1億2400万~1億1000万年前のデイノニクスの時代だ。ポッドがデイノニクスの群れの前で止まり、ポッドのドアが開いた。もちろんこれもバーチャルなので問題はない。彼女たち3人はポッドから降りて、観察することにした。一匹のデイノニクスがこちらに気づいた。数匹のデイノニクスが近づいてきた。小型の獣脚類であるデイノニクスは恒温性で活動的だ。集団で行動し、知能も高い恐竜であったと考えられている。デイノニクスは全身に羽毛を持っていても飛ぶような能力はない。しかし、長い尻尾を真っ直ぐに伸ばしてバランスを取る事によって二足歩行を実現しており、高い知能で連携をとって素早い動きで獲物を捕まえる優秀なハンターであった。


 瞬く間にデイノニクスに囲まれてしまったメイたちはVRであることも忘れ恐怖を覚えた。

「大丈夫よ、VRだから」

隣のルカが言った。

「分かってるけどリアル過ぎ!」

メイが答えた。

彼らが襲ってくる様子はない。むしろ仲間同士で何やら伝え合っているような雰囲気だ。突然誰も乗っていないはずのポッドが動き出した。一匹のデイノニクスが乗っていた。

「大変・・・!」


 遺伝学者たちはデイノニクスに高度過ぎる知能を与えてしまった結果、好奇心が彼らをとんでもない行動に駆り立ててしまったのだ。どうやってポッドを動かしたのかはデイノニクスに聞かないとわからない。その後、デイノニクスたちは多くの訪問者たちにいたずらを仕掛けて好奇心を満たしていた。施設の監視員たちも彼らの行動を注意深く分析しながらも、何か問題が起きない限り介入することはなかった。


しかし・・・

 ある日彼らはとんでもない行動を起こした。彼らの好奇心は施設の外に向けれれたのだ。人間たちが寝静まった真夜中にそれは起こった。万全であるはずのセキュリティが破られた。夜勤の監視員が彼らに拘束されゲートを開けさせられたのだ。

監視員曰く・・・人間の言葉をしゃべったというのである。


「ゲート開けろ!」


鳥に進化したといわれている恐竜。インコやオウムは社交的な鳥で知能も高く、おしゃべりが得意だ。社交的な性格のデイノニクスたちは人間に危害を加えることはなかったが、10数匹のデイノニクスたちは街中でいたずらし放題。捕獲に相当てこずったのは言うまでもない。


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この度、過去にブログで紹介した記事を元に再編して書き下ろした「誰にも教えたくない写真上達法!パート1~4を出版しました。著者ページは以下のURLよりご確認いただけます。(なぜかPCでのみ閲覧可能)

https://www.amazon.co.jp/-/e/B08Z7D9VXK

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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