ソフィー

 彼女の名前はソフィー。僕は複数の仕事に就いているのでどれが本職?と聞かれても答えられない。ある時はクリエイター、またある時はフリーのカメラマン、またある時はカフェのマスターだ。出会ったきっかけは飲食店への取材だ。僕は毎日リアルタイムで都市の情報を配信している。今の時代、情報発信をしている人はとても多いので、調べればわかることを発信しているだけじゃ、ライバルと差別化することはかなり難しい。なので、現地取材即発信がモットーだ。自分もカフェのマスターなので飲食店関係の情報はいち早く入ってくる。都心のとある飲食店は、世界中の食材を集めて、一流レストランの味をAIが正確に調理再現して提供するという初の試みだ。料理人はAIだ。AIが調理すること自体がニュースである。

 そこの店舗の管理を任されていたのがソフィーだった。カフェはマスターが不在でも客が入店してコーヒーを注文すると人型ロボットが対応してくれる。だから僕はいつでも取材に出かけられる。取材中、彼女と店舗経営について共通の話題で盛り上がった。料理は顧客が注文時に「三ツ星レストラン」を指定するとそこの「味」を再現してくれるのだ。メニュー価格はちょっと高めだが、本家のレシピの使用料が含まれているからだ。

 僕に限らず今のビジネスマンの多くは仕事場を選ばない。どこにいてもバーチャルオフィスで対応できる。僕は気が付けばオン、オフに関わらず彼女の店に訪れていた。いつしか僕は彼女に特別な感情を抱くようになった。

「今度の休日にどこか遊びに行こうか」

「いいわね」

彼女は快く承諾してくれた。

 二人は都内の遊園地に来た。遊園地の形態は昔とあまり変わらないように見える。敷地内は広いので、貸し出しのホバーボードで園内を走り回った。ジェットコースター、観覧車、ライドアトラクション、暴走列車・・・楽しい時間はあっという間に過ぎていった。冷たい飲み物が二人ののどを潤す。すべてが順調だった。だけど・・・

 食事のために園内のレストランに入ろうとしたとき、彼女からとんでもない真実を聞かされたのだ。

僕は当初素直に受け止められなかったが、彼女は生きていると確信できた。笑い、怒り、愛おしみ、楽しむことができる人間として生きていることに間違いはないのだ。僕はそれ以後も、彼女を他人と同じ扱いで接してきた。思いは変わることはなかった。一緒に暮らし始めてもう1年が過ぎた。僕は誰が何といっても彼女と結婚したい。僕の親、兄弟、親族はもちろん反対するだろう。

 飲み物は消化吸収できるが、彼女にとって食事は必要ないことだった。経営をすべて任せられるようにオーナーが店舗とともにつくった、人間の不完全ささえも兼ね備えた完璧なアンドロイドだったのだ。

 人間とロボットの結婚なぞとんでもないと思うかもしれないが、100年前には同性愛者の結婚も同じように考えられていた。アンドロイドと人間がパートナーとして真に結ばれる日、そしてそれを社会が認める日を僕は待ち望んでいる。

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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