自動認証

 プライバシー侵害とは、プライバシー情報を他者にみだりに公開されない権利(プライバシー権)を侵害する行為のこと。もしも、あなたが誰にも公開していない個人的な情報を公開されるようなことがあれば、それはプライバシー侵害となり得る。

 テクノロジーの発達は容赦なくプライバシーの中まで侵入してくる。脳インプラントを使った認証技術は画期的であったが、一方で情報漏洩の危険度が増した。古くからある顔認証は今や時代遅れとなってしまった。なぜなら、バイオテクノロジーのおかげで多くの人にとって顔の整形に限らず手軽に人体改造ができるようになった。当然顔認証システムは瞬く間にお払い箱となってしまった。脳インプラントを使った認証技術は本人確認とは、個人にリンクされているかリンクすることができるあらゆる情報、たとえば医療、教育、資産、雇用に関する情報。学校名・銀行口座・クレジットカード番号など、誰であるか特定される可能性のある情報が個人情報ではなく、そのような情報を含む情報全体が個人情報だという認識から、脳インプラントからの情報は究極の情報漏洩につながりかねないのである。

 

 ある日、旅客ターミナルに設置されている認証シムテムがハックされたという情報が流れた。個人情報の漏洩が目的のウイルス侵入だ。当日この旅客ターミナル利用客は10万人を超えていた。ゲートは遮断され当然旅客機も飛べない。マイク一家はこの日海外旅行初日である。まったくついてない。マイクは旅先の予約施設にアクセスして時間変更を余儀なくされた。ターミナルロビーでは多くの客が同じようにネットにアクセスしている様子が分かる。あちこちで3Dスクリーンが立ち上がっている。3Dスクリーンとは脳インプラントに直結していて、本人の目の前に映し出す40インチほどの仮想スクリーンだ。ここにネット上のサイトや動画、電話の相手などを映し出すことができる。隣でマイクのパートナーと子供たちが覗き込んでいる。

「すみません、予約時間がずれそうなんです」

いきなり要件を切り出したが相手はすでに誰なのかは理解している。いちいち誰であるかを告げる必要はない。脳インプラントに直結された情報が相手にも伝わっているからである。どのような情報を伝え、またはブロックするかは本人の意思によって制御できる。

「わかってますよ、いまニュースでやってました。出発時間が決まり次第またご連絡ください」

相手は人型ロボットだ。一度に何人もの予約客を相手にしているのだろう。

「でも、私たち認証の通過前にハックがわかってよかったわね」

「そうだよ、姉ちゃんの秘密もばれちゃうもんね」

弟のジミーだ。

「秘密って何よ」

姉のメグが弟を小突いた。

 情報を盗み取って悪巧みをする輩はいつの時代になってもいるものだ。大昔の日本でも「忍者」という忍びを職業にした集団がいた。良くも悪くも彼らは殿様に仕えた情報収集の達人たちだったが、現在の忍者は目に見えないとても厄介な代物だ。サイバー犯罪は組織化されて、ビックデータの収集に傾注している。ビックデータの要はプライバシーの集積なのだ。

マイクは復旧までの時間をインフォメーションセンターに問い合わせた。インフォメーションでも分かるはずもない。時間つぶしに昼食をすることにした。ターミナル併設の飲食店はたくさんある。

「お店の認証システムは大丈夫?」

マイクのパートナーが中華料理店に入る直前に、入口に立っている招きロボに尋ねた。

「私自身が認証致しておりますのでご安心くださいませ、それに不必要なデータは取得いたしません」

 復旧までにまる半日を要した。

 自動認証はどんな場面でもブロックを外せば「素通り」できるという便利さが売りであったが、この日から多くの人々は自動認証の度に、安全を確認する人が増えたことは間違いない。

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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