ダークナノポッド

 宇宙開発の現場で無くてはならない存在がサイボーグたちだ。生身の人間なら生きられない過酷な状況でも支障なく生存し、仕事ができる。彼らは本来人間として生まれ育ってきたが、成長の過程で重大な生命の危機に瀕しやむなく大半を人工臓器に代替えして生かされている。そして遥かに強化された身体能力を生かした職業に赴く人が大勢いた。それが宇宙開発事業の現場である。宇宙開発に終わりはない。宇宙は広大なのだ。

 ロベールはすでに160歳を超えていた。当然であるが年齢を重ねても外見は変わらない。一見40代くらいにしか見えない。彼の仕事仲間にはアンドロイドもいるが見分けがつかない。どちらも人間たちの管理下に置かれていることに違いはないのだ。彼はある日仲間のシモンからとんでもない計画を持ち掛けられた。シモンは根っからのアンドロイドである・・・と思っていたが、実は生まれは人間だったのだ。

「ロベールさんちょっと話があるんだけど」

「実は俺・・・」

そう言うと上着の裾をめくって腕の内部を開放して見せた。そこにはサイボーグである緑に輝く印が光っていた。「シモン・・・サイボーグだったんだ、僕はてっきりアンドロイドだとばかり思っていた」

「全部機械であることに間違いはないですよ。でも脳に電子化された記憶が移植されている、生まれは人間です」

ロベールはシモンの落ち着かない様子に気づいた。

「話ってのは・・・カミングアウトだけじゃなさそうだね」

「ロベールさんはサイボーグとして160年生きてきましたね。僕はまだ93年です。でももう我慢できません」

 ロベールは今では「脳」だけが人間として残されている最強のサイボーグだ。彼に限らずサイボーグと呼べる人々は事実上「不死」を獲得している。テクノロジーが常に更新されて生命維持に貢献している。もちろん生身の人間の寿命も120歳に達していた。寿命が尽きる前にサイボーグとして生きていくという選択肢もある。だがそれは大きな違いがあった。人間としての権利は剥奪され、サイボーグとしての制約が纏いつく。ナノテクノロジーがサイボーグの身体能力を制御している。つまり常に人間の管理下に置かれる身なのである。「永遠の命」の代償は大きいのだ。

「我々も元は人間です。人間と同じく生きています。人間たちは我々サイボーグを信頼できない存在として扱っています。そのことに対して我慢できないのです」

「君の言いたいことはわかるよ、でも現状どうすることもできない。ナノポッドが制御している」

「そのナノポッドを無効にする方法を見つけたんです」

「何だって・・・?」

 ナノポッドとはサイボーグの体内に注入されたバイオテクノロジーだ。すべてのサイボーグは体内にナノポッドを保有し身体能力の制御を司っている。そのコントロールキーは人間が持っている。だから人間たちに意見することはできても最終的には従わざるを得ないのが現状だ。これはサイボーグの暴走を想定している。まともに戦えば身体能力では遥かに上を行くサイボーグに勝てないのだから。


「すでに実証済みです。コントロールキーを中和するんです。通常のナノポッドをプラスだとしたら僕の造ったナノポッドはマイナスなんです。普段は体内で共存していますが、コントロールキーが介入した時だけマイナスに働いて中和してくれるのです。通常のホワイトナノポッドに対してダークナノポッドと名づけました」

 シモンはこれをサイボーグたちに注入して仲間を増やして革命を起こそうと言うのである。

 ロベールは条件を出した。

 ダークナノポッドはお互いに対等の立場で交渉するために使うこと。そして、絶対に人間に危害を加えないこと!


…続く

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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