お節介ロボ
朝の目覚めから歯磨き、着替え、朝食、洗濯などの忙しい朝時間の中でスムーズに準備させてくれるお手伝いロボットがいま巷では注目されている。購入するにはまだちょっと敷居が高い値段である。
ザック・ロビンソン一家の一日の始まりはご多分に漏れず、今朝もたいへん忙しかった。朝の時間帯は、共稼ぎなので夫婦は二人とも仕事の準備で大忙しだ。1日中テレワークの日はめったにない。ザックは今日クライアントとプロジェクトの打合せがある。バーチャルではなく直だ。妻のマーシーは下の子供が小学校に入学した後職場に復帰したばかり。姉のリヴは16歳、弟のマイクはまだ7歳だ。週に2回の登校日(月曜日と金曜日・・・午前中のみ)は特に忙しい。
マーシーは起きてきたマイクの学校に着ていく服を用意していた。朝のうちは涼しいけど日中は暑くなりそうなので、半袖の上に一枚上着が必要かな・・・と考えていると娘も起きてきた。
「おは~」
「何ですか、その言い方は」
「ママ今日は友達と会うから昼食いらないよ。朝ごはん要らないよ。行ってきま~す」
「食べなきゃダメよ!」
娘の後ろ姿に向かって言ってみたものの、すでにリヴはエアカーに乗り込んでいた。完全自動運転のエアカーはひとり1台の時代だ。
マイクが朝食をねだってきた。
「トースト、半熟卵、アイスミルク、ベーコンね」
調理機にメニューを入力しているとやっとザックが起きてきた。それに気づいたマーシーは、
「朝食自分で・・・好きにして、私仕事の準備しなきゃ」
「・・・ああ、わかったよ」
マーシーは送迎ドローンにマイクを乗せると戻ってきて、洗濯物を洗濯機に放り込んでいると、
「おい・・・ベーコンとスパが在庫切れだ」
「注文しといて」
こんな感じで始まる月曜の朝。マーシーは夫に言った。
「そろそろうちもメイドロボが欲しいね」
「そんな余裕どこにあるんだ」
それを言われると返す言葉がない。
マーシーは午後、仕事から帰ってくると早速あるところに出かけた。メイドロボレンタルの営業店である。夫には内緒にしていたが、友人からの情報でレンタルロボがあることを知った。1週間に限りお試しレンタルで無料だという。店内で出迎えてくれたのもメイドロボだ。
「1週間に限りお試しレンタルできると聞いてきたんだけど」
「ご推薦者はどなたでしょう」
「うちの母親です」
推薦者なんていなかったが、マーシーはとっさに答えてしまった。
すかさず奥から店長らしき人物がやってきた。
「お母さまの推薦が一番信頼できます」
店長は10体ほどのメイドロボを紹介してくれた。ただ1体だけ古い機種のメイドロボがいた。これは5世代前に造られたロボで、このロボに限り3週間無料だという。最新型に比べると動作が鈍いそうだ。だけど迷わずこれに決めた。
翌日注文のメイドロボが店のスタッフと一緒にやってきた。子供達には言ってあるが夫にはまだ話していない。無料の3週間の間に夫を説得しなければいけない。
メイドロボはスーという。以前の使用者がつけた名前である。つまり「スー」は中古品だったのである。スー自身が言ったことなので間違いはなさそうだ。以前の使用者は高齢の夫妻だったそうだが、二人とも他界してしまいレンタル店に戻されたばかりっだったのだ。スーは高齢者に合わせた仕様になっていたのでいくつかのプログラムは改修されていたが、本来のAIとしての性格はそのままだ。AIの性格は使用者によってつくられるというもっぱらの噂である。
ところで肝心の夫のザックの反応はどうだったのか?
初めての対面で・・・
「お帰りなさい、あなた」
「今日のクライアントいけると思う」
と言いながら妻を目の前にして上機嫌で上着を脱ぐ。上着がスッと外されて軽くなった。妻が取ってくれたと思っていた彼は目の前のマーシーを見た後、思わず振り向いた。
「お帰りなさい、お疲れさまでした」
とスーが応じた。
「・・・な、何だ、誰だ・・・」
子供たちも出てきた。
マイクがスーに寄り添うようにそばについていた。
「パパ、スーをおいてあげて・・・」
「スー?」
「ロボの名前よ」
と、リヴ。
「子供たちはもうスーを気に入ってくれたわ」
「お願いパパ」
「旦那様、私はメイドロボとして何年も高齢のご夫婦のお世話をしてきました。新型のロボと違って経験、知識が豊富です。一生懸命努めさせていただきます」
「スーを3週間おいてくれたらきっと気に入るはずよ」
と、マーシー。
ザックは渋々ながらも3週間は無料なので、その間に粗を見つけてやろうと考えていた。
高齢者に仕えていた時からお節介なところがあったスーはロビンソン一家でも変わらなかった。朝はマイクの起床時間には必ず起こし、天気や気温を考慮しながら適切な衣服をチョイスして着替えを手伝っていた。娘にはいろいろな面で悩みが尽きない思春期、親からの自立と依存のはざまで葛藤する不安定になりがちな感情の起伏に対して、親がとるべきスタンスをマーシーに提案しながら対応していた。さらに家族の食事はすべてスーが調理していた。調理機がつくる料理に比べるとスーの『手料理』は大変好評だった。それもそのはず有名料理店のレシピがスーの内蔵ディスクに治められているのだ。まるで専属コックを雇っているようなもの。これがザックの心を掴んだ。ザックは考えを改め始めていた。
2週間後の事である。
ザックは珍しくクライアントを家に連れてきた。スーの『手料理』をふるまってご機嫌を取ろうというのである。マーシーと子供たちが、50代くらいの中年男性のクライアントを出迎えた。彼はロビンソン家のメイドロボを見ていきなり抱きついたのである。驚いたのはザックだけではない。
「スー・・・ここにいたのか!」
「お久しぶりです」
よくよく話を聞いてみると、とても奇遇な出会いだったのである。
このクライアントの両親というのが、実はスーの以前の使用者である高齢夫婦だったのだ。彼はスーを引き取るつもりでいたのだが、いったんレンタル店に返さなければいけなかった。折を見てスーを連れ戻そうと思っていたら、手違いで無料レンタルに出された後だったというわけだ。
ザックとクライアントの男性はスーの引き取りについて話し合った。マーシーも子供たちも参加した。当然であるがロビンソン家の気持ちとしてはスーを手放したくない。ザックはクライアントの意向を尊重したい。
話し合いの結論は・・・スーに一任ということになった。スーは悩んでいるようで即答は避けた。レンタル期限まであと1週間ある。
一介のメイドロボが重要な判断を任されてしまった。
ロボなのに・・・。
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