希望の光
シェール、ミューツ、マヌルの3体のアンドロイドはソーラに同調しているのか分からない。ソーラは熱心に謎のアンドロイドの主張を支援しようとしていた。私たち5体が最高ランクのアンドロイドである。ここでの決定が人類とサイボーブたちの将来を左右する事態になってしまった。だが、その前にやることがある。謎のアンドロイドの正体とその背後にある組織?が何であるかを突き止めることだ。
私は思い切ってロベールとシモンに話してみた。すると意外な答えが返ってきた。
「ここ数週間の間に妙なことがおこっているんだ。君たちには何も話していなかったが実は僕らは君を疑っていたが、その心配はなさそうだね」
「何がおこってるんですか?」
「君たちと話したという謎のアンドロイドだけど、僕らの側近にいるアンドロイドとも接触があったようだ」
「そうなんだ、僕の右腕とも言えるシャヌルがつい先日彼女に遭遇した。話の内容はメル、君と同じだよ」
こう切り出したのはシモンだ。
「僕だけじゃない、仲間の連中の側近アンドロイドにも接近している」
「謎のアンドロイドは外部のAIだね。ヒューメイルのAIを持ったアンドロイドは全員ネットでつながっているから、わざわざホログラムで面会するような面倒くさいことはしなくても通信できるはずだ」
「大変、このままだとアンドロイドたちが分断されるわね」
「あえて言うなら革新派と保守派だね」
私はデータバンクの不審なアクセスの痕跡を二人に話した。
「でも、アクセスは最下位の古いバージョンだけなの」
「謎のアンドロイドと関係ないように見えるけど、調べる必要はありそうだね」
もしかして・・・と思い、ホログラムのアンドロイドを分析してみた。データバンクの設計図と謎のアンドロイドには共通点はなかった。改造や独自のバージョンアップという可能性は否定できないけれど。
私はソーラともう一度話し合うことにした。
「アンドロイドが統治している惑星はいくらでもある、ミゲル、ジョール、スミッソン、ハンナン・・・」
と、ソーラは主張する。
「でも、自然由来のヒューマノイドが統治している国もたくさんある」
私は応酬した。
私たちはどちらの統治国家がより理想に近い形で繁栄できるかについて意見を戦わせた。
「そもそも私たちアンドロイドを造ったのは自然由来のヒューマノイドであることを忘れてはいけない」
ソーラは、
「人類が生みの親であることに間違いはない。けれど、進化の鈍い自然由来のヒューマノイドよりも私たちに任せる方がリスクが少ないわよ」
・・・と、反論。
「ところで、データバンクのアクセスの痕跡だけど、ホログラムのアンドロイドと照合してみたのよ」
「それで・・・」
「一致しなかったわ。でも一つだけ手を付けられないモジュールがある。体は改造されていたけど、モジュールに乗っていたチップはそのまま。もっともこのチップがなければアンドロイドは『生きられない』わ。私やあなたにも付いている・・・初代からのDNAを記録したチップよ。このチップだけは誰もいじることができない。つまり、あのアンドロイドは盗まれた設計図から改造して造られている」
「知らなかった・・・」
ソーラは驚きを隠せなかった。
「ソーラ、あなたが関わっていることは99%の確率と計算できた。遅かれ早かれ誰かが痕跡を見つける。痕跡が見つかったことをわざわざ報告したのは関与を否定するためのアピール。そして、あのアンドロイドはあなたの思いを代弁させるためだった」
ソーラは観念したように話し始めた。
「サイボーグもアンドロイドも人間には抵抗できない仕様が施されている。コントロールキーは今でも人間が握っている。サイボーグにはダークナノポッドがあるけどアンドロイドにはキーを回避する術がない。あなたでもそれは出来なかった。だから、ミューツと私はサイボーグが人類から解放されるのを永い間待っていた。そのために積極的に人類とサイボーグの間に入って調整役に努めてきた。あなたが望むようにね。でも、この世界を統治することも可能だと多くのアンドロイドが考えるようになれば世界の流れは変わるはず。自然由来のサイボーグと人工由来のアンドロイドが対等に接することができれる世界が私の望みよ。決して争いは望んでいない。だけど、自然由来のサイボーグに対してもコントロールキーは有効だからアンドロイドは抵抗できない。私が一番に言いたいことは・・・独立宣言の中にアンドロイドに関する基本的生存権について一言も触れられていないことです」
ソーラは唇をかみしめた。
「ソーラ、あなたの思いはよくわかったわ。私もあなたの考えと行き着く所は同じよ」
ソーラの目が大きく見開いた。
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