エージェント
さて・・・その日の夜全員が集まった。今日の出来事を詳細にジャンが報告した。リーダーのサバンナ(サバンナはアフリカに生息するネコ科動物の一種であるサーバルとイエネコの交配種。オスのサーバルとメスのシャムを交配させて誕生しました。卓越したジャンプ力を有し、その身体能力は、垂直とびで2.5メートルほどもある)は、皆にしばらくは緊急事態に十分に備えるように促した。
そして、僕に向かって言った。
「我々のちょっとした秘密を見てしまった君には特別にいいものを見せておこう」
「何ですか?」
「こっちへ来給え」
僕はサバンナのケヴィンに促されて部屋の奥にあるレンガの壁に向かって歩き出した。
突然壁が湾曲したように見えた瞬間にケヴィンはその中に吸い込まれていった。僕もすかさずついていった。壁の向こうは巨大なモニターがあり、いくつかのパネルが並んでいた。
「ここはいったい・・・?」
僕はもう何を見せられても驚かない振りをしていたが、さすがに限界があった。
「我々はミャンサムのエージェントだよ。本部から委託を受けてここに支部をおいている」
「・・・てことはミャンサムの諜報機関?」
「そんなとこだな」
「犬や猫と人間との関係って、この世界は僕の認識とかけ離れているように思えるんだけど・・・」
僕は言葉に詰まってしまった。頭の中の整理がつかない。
「無理もない。我々はちょっと君のことを調べさせてもらったよ。君の世界に違いないが、君自身はアウトサイダーなんだよ」
僕はますます分からなくなってしまった。
ケヴィンはそれ以上詳しいことは話さずに
「・・・後ろを見て」
振り向くといつの間にか2体のロボットが立っていた。
「ヘレンとニックだよ」
えっ、あの世話役の二人の爺さんと婆さんだと・・・驚いた!
「あの・・・今日町に行ったときは全く感じなかったけど、すごいテクノロジーが進んでるみたいだね。これってエージェントしか知らないテクノロジーなの?」
「ミャンサムとクワンサムが中心になって開発してきた科学技術。詳しいことは私にもわからないが、今日のテロも自爆した車の運転手はロボットだと分かっている。人間を使うことはしないよ。簡単にいうと、犬族は人間の良き友であり下僕だが、猫族は人間の良き友だが下僕ではない・・・ということだ。そしてケレニックたちはそれをひっくり返そうと企んでいる。そして最も重要なことは君が我々の救世主になるだろうということだ」
僕は耳を疑った。何かの間違いじゃないのか。そんな技量も才覚もない、しかもアウトサイダーの何処の馬の骨か知れない若造が救世主?
「あなたがそう確信するためには根拠があると思いますが・・・」
「古くからの言い伝えがある・・・とだけ言っておこう」
・・・とその時、モニターに突然映し出された映像にはスコティッシュフォールドが映っていた。ケヴィンはすぐさま応答した。
「ケレニックが宣戦布告を告げてきた、大変な状況になることは避けられない。24時間以内にクワンサムから何らかの攻撃があるものと思われる。全システムを動員して情報収集し対処せよ。ミサイル攻撃に備えて全支部と連携してバリアを張れ」
本部からの緊急連絡だった。一気に慌ただしくなった。全員が室内に集まりそれぞれ分担されたパネルを前にして操作を始めた。
ベンガル(ヒョウ柄の美しい猫種。筋肉質でがっちりとした体で、頭が小さく野性的な雰囲気がすごい。滑らかなシルクのような手触りで厚く密着した毛はやわらかい)のトニーから早速報告が入った。
「サガ地区でバリアにミサイルが着弾しました」
「大丈夫ですか?」
僕は心配した。
「な〜に一発や二発バリアに当たってもびくともしないよ」
とは言ってもミサイル攻撃は激化していった。
トニーが、
「バリアが持ちこたえられるのは時間の問題です。やつらはサガ地区に集中して攻撃してきています」
その時突然モニターに映し出されたのはケレニックだった。
「サガ地区のケヴィン、お前の所にかくまっているジミー・オルソンと話したい」
何で僕のことを知っているんだ。
「われわれはお前の正体をつかんでおる、自分自身が何者か知りたければここへ来ることだな。来ればミサイル攻撃はやめる。来ると言えば即座に攻撃はやめてやる」
僕は行く決心をした。というか行かざるを得ない状況だ。
「で・・・どこに行けばいい?」
「簡単なことだ、戸外に出たらサーチライトを点滅させろ。すぐに転送してやる」
0コメント