ルスラン博士の本心(警告…続編)

本編は「警告」…続編です。


 ルスラン博士はメレンチーからスカイ・フォー対策を講じるように言われて忙しく仕事に没頭していた。ハルムたちの持ってきた異星のテクノロジーは彼の好奇心を大いに刺激した。残念ながら”光の環”に関するデータはなかったが、スカイ・フォーがすでに装備していた転送技術に関する情報や”緑の治療光線”の情報が含まれていた。新しいテクノロジーを前にすると研究者たちは寝食を忘れて没頭するものなのだ。ルスラン博士も実験室に閉じこもってしまった。メレンチーのためというよりは科学者の性がそうさせていたのだろう。ハルムたちの公開してくれたテクノロジーは50アイテム以上あった。彼の興味を掻き立てたのは、メレンチーの指示されたスカイ・フォー対策に直結する対応策とはほど遠いものだった。最初に目を向けたのは、やはり”緑の治療光線”に関わる技術だった。そして次に開封したテクノロジーは、転送技術であった。この二つに関しては、直接的にはスカイ・フォー対策につながる装備とは言えないものだが、ルスラン博士は人道的な側面から大いに役立つと考えていた。サイボーグに装備する転送装置の実験をクリアするとようやく博士は一息ついた。

 ルスラン博士の実験室の様子を陰からうかがっていたラウロには、博士のメレンチーに対する忠誠心に変化が現れたようにみえた。クアンタムはもともと人間の感情推移に対しては機敏に察知できるように作られているのだ。ラウロは久しぶりにルスラン博士と二人だけになる時間ができると、

「父さん・・・僕が本当に生きていたときはどんな子供だったんですか?」

ラウロは父親と呼んでいるルスラン博士に尋ねた。

「急にどうしたんだ、ラウロ」

「父さんは・・・どうして僕を作ったんですか?僕は人間でないこともわかっています。でも、僕の中には人間として生きていた時の幼い頃の記憶も残っています。それが時々僕の中でとても大きなうねりのように心にのしかかってくるんです。心が締め付けられる思いが強くなって・・・何と言っていいのかわかりませんが精神的に不安定になるのです」

「お前を失いたくなかったからだよ。愛していたから・・・ただそれだけだ。お前たち・・・私が作ったクアンタムは人間として”生きていて”ほしいと願っている。だから・・・クアンタムの人権問題に関しても人一倍真剣に取り組んできた。そのつもりだったが、今から思うと少々強引すぎたようだな。お前たちをけしかけた私はどうかしてたんだ。メレンチーがいい反面教師になった気がする」

「じゃあ、すぐにでもメレンチーと手を切るという考えは?」

「そうしたいのはやまやまだが、その前にやっておくことがある。D・Mウイルス兵器だよ。これは私が開発したのだが、メレンチーは仲間のサイボーグにも脅威となる使い方をしている。これをキャンセルする対策を施しておかないと大変なことになる。そのためにはもう少し時間が欲しいのだよ」

ラウロの推察通り、ルスラン博士の心の中ではメレンチーに対する敵対心が芽生えていた。

 ラウロは話題を変えた。

「父さんとウィン博士は同じ仕事をしていたんですよね?」

「そうだよ、お前と兄さんが事故に遇う前までは一緒にクアンタムの研究をしていたよ」

「どうして辞めてしまったんですか?」

「お前たちの不幸な事故で私は精神的におかしくなっていたのかもしれない。何とかして二人とも救いたかった。お前は正直言って助けられなかった。だから・・・お前に関する私の記憶、思い出の詰まった品物、おもちゃ、映像を全部かき集めてデータを作り上げて、お前に似せたクアンタムのAIに移植した。成長とともにお前自身に自我が芽生えたときに生きていた証しが記憶として蘇るようにプログラミングしたのだ。だから、お前は生きていた時のお前自身と同じ人格を持って成長した。それから、兄さんは脳だけがかろうじて生きた状態だったので、サイボーグとして生かすことを選んだ。その頃だな、私はクアンタムのプロジェクトを辞めてしまい、いつしかメレンチーの下でサイボーグの研究を必死になって始めていたんだ。研究に没頭することで失ってしまったものを忘れようとしていたのかもしれない」

 ラウロはルスラン博士の本心を聞くことができたような気がした。


 ラウロは兄さんの近況について聞いた。

「ところで兄さんは元気?兄さんは父さんと一緒にメレンチーの下で働いていると思っていたんだけど・・・ここに来て一度も会っていない」

「いや、メレンチーは兄さんのことは知らないよ。お前もわかっていると思うが、メレンチーは極悪非道の独裁者になり下がってしまった。私は最初彼に会ったとき”サイボーグのための国づくりを目指している”と言っていたのだが・・・私はサイボーグを作れる環境が欲しくてメレンチーに協力してきたが、次第に手段を選ばない残忍さを目の当たりにして、兄さんを彼の目につかないところに遠ざけてしまったのだよ。息子を悪魔の手下にはしたくなかったからだ」

「兄さんは今どこで何をしているんですか?」

ルスラン博士は少し間をおいて話を始めた。

「このことは、絶対にメレンチーに知られてはならんぞ。お前の兄さんサイモンは今日本にいる。自然災害の多い国だから・・・」

「自然災害が多い?」

「災害救助の世界に身を投じている。レスキューサイボーグとしてな」


…続く。

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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