核の脅威
トリポリはリビアの首都だ。リビアの北西部に位置し、地中海に面した港町、人口は約120万人でリビア最大の都市である。トリポリは現在も身代金目的の組織的な誘拐事件が多発しており、一般人にとっては非常に危険な地域である。トリポリでは各民兵組織が独自の行動計画に基づいて活動しており、国民統一政府がこれを統制できない状況が断続的に200年もの長い間続いていた。ここに目を付けたユリウスのメレンチーは、民兵組織とトリポリ掌握を目指すリビア国民軍との衝突が続いていたが、これをサイボーグ軍団を使い、市内で暗躍するテロ組織を統合し、国民統一政府に対してクーデターを起こしたのだ。リビア国民軍とは、リビア国内に展開する反政府武装組織。実質的にはリビア軍の陸軍や空軍組織が、暫定政府に敵対する形で形成された組織である。そして、ユリウスサイボーグ軍団を構成しているのは、リビア国内の各地に潜伏していた多数のテロリストたちであった。
ルスラン博士がD・Mウイルス兵器を開発したきっかけは、ユリウスサイボーグの暴動を防ぐ目的があったからだ。このサイボーグ軍団は言わば”ならず者”集団である。強制的に従わざるを得ない状況を作り出すことで軍団を統制していたのだ。だが、ここにきてルスラン博士が反旗を翻した。ワクチンをサイボーグ軍団に流すことを敢行したのである。すぐさま、博士はラウロにメッセージを送信した。受け取ったラウロはスカイ・フォーとリビア政府軍にGOサインを出した。リビア政府軍はユリウスサイボーグが陣取っている首都トリポリの奪還に向けて、包囲網を狭めていった。これを察知したメレンチーはサイボーグ軍団に最高レベルの警戒態勢を敷くように指示した。
メレンチーはつぶやいた。
「政府軍のやつら、気が狂ったのか・・・」
ついに双方が至近距離で対面することとなった。上空には政府軍攻撃ドローンも控えている。ユリウスサイボーグたちは自分たちの優位性に自信を持っていたので楽観していた。が、政府軍サイボーグたちの異常なまでの落ち着きぶりに脅威を感じ始めていた。たまらずユリウスサイボーグの一人がD・Mウイルスをぶっ放した。
しかし・・・、彼は恐怖におののくように叫んだ。
「ウイルスが効かない!?」
この一言でユリウスサイボーグたちは混乱してしまった。ウイルス以外の武器を使って政府軍サイボーグたちに襲いかかった。政府軍は攻撃ドローンが加わってサイボーグたちを援護していた。上空のドローンを迎撃するのは、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させるいわゆる"ソフトキル"と、対空機関砲のように上空のドローンを爆破させる"ハードキル"がある。ユリウスサイボーグが使っているのは"ハードキル"のほうである。ジャミングはできない。なぜなら、政府軍攻撃ドローンは自律型なのだ。目標をあらかじめ設定しておけば勝手に探し出して破壊するという優れものである。続いてスカイ・フォーが介入してきた。フラッシュリングで前線にいた何人かのユリウスサイボーグを拘束した。拘束されても仲間に殺されるという心配はない。
これをモニターで監視していたメレンチーはルスラン博士に、
「いったいどういうことだ。ウイルスが効かない・・・」
「おそらくワクチンをあてているのでしょう」
ルスラン博士ははぐらかした。
「ワクチンを作った・・・ということか?」
博士は何も返答しなかった。
「まさか博士・・・」
メレンチーは博士を鋭く睨みつけた。
「博士はもうあなたの指図は受けませんよ」
突然メレンチーと博士の間に現れたのはラウロであった。
驚いたメレンチーは
「貴様もグルか?」
「誰も助けに来ません 、あなたの側近はとっくに眠っていますよ」
この言葉を聞いたメレンチーはとっさに手元にあるパネルを確認していた。パネルは核ミサイルの発射ボタンであった。メレンチーは薄ら笑いを浮かべながら、
「このボタンを押せば3分後には核ミサイルがトリポリに向けて発射される。お前たちはおしまいだ。リビアは俺の言いなりになる。この場からさっさと失せろ」
「そうは問屋が卸しませんよ」
ラウロの後ろに現れたのはクリスチーヌであった。
「誰だ・・・」
「私はスカイ・フォーの・・・”レッド”よ。あなたを拘束します」
クリスチーヌはすかさずフラッシュリングでメレンチーを縛った。
「これで核のボタンは押せないわね・・・」
しかし、拘束されたまま突然メレンチーは大声で笑い出した。
これにはその場にいたラウロもクリスチーヌも博士も、メレンチーが錯乱したと思い込んだ。
「お前たちは後悔するぞ、見ろ・・・パネルがカウントダウンを始めたのがわかるか」
核ミサイルの発射まで3分、いや2分30秒だ!!
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