退避

本編は「核の脅威」…続編です。

 ジャウフは、リビア東部のキレナイカ地方のクフラ県の県都。標高382.2mで、人口は約2万人。ジャウフでは雨が殆ど降らず、平均の年間降水量は、わずか2.5cmである。夏は平均が38°C以上と高温である。 町は、クフラ盆地で最大のオアシスだ。 サハラ砂漠でも最も水が湧き出るオアシスの1つである。このジャウフという都市にユリウスの本拠地がある。

 このユリウスの本拠地にある核施設の「死の手」と呼ばれる核報復システムが稼働した。これは200年も前にロシアが運用をはじめたシステムが元祖である。人為的な操作をせずとも自動的に核を敵に浴びせられる自動制御システムのこと。運用開始当初は人間が発射ボタンを押す必要があったが、現在は司令部の非常事態を認識したAIが核使用の判断を下す。その判断材料の中には、最高意思決定者の不慮の事故、または死も含まれている。メレンチーが直接ボタンに触れなかったにも関わらず自動的に核ミサイルのカウントダウンが始まったのはこのシステムが作動したためである。

 

 核ミサイルを発射した瞬間の噴射熱を衛星が察知、さらにミサイルの熱源で方向を把握する。それに基づいて、国内外のレーダーが待ち構えて探知し、それらの情報を集約して着弾場所を予測するのだ。そのうえで迎撃ミサイルがスタンバイする。ミサイルは、極超音速で飛ぶ核兵器が搭載されているのは間違いない。マッハ20を超える速度で飛行し、あっという間に目的地上空に飛来する。だから、追跡・迎撃を試みても、発見からものの数分で着弾してしまう極超音速ミサイルを完全に防御することは、現在の防衛網でもほとんど不可能なのである。

 トリポリに向けて発射される核ミサイルのカウントダウンを止める術もない。クリスチーヌはすぐさま現場のスカイ・フォーメンバーに警報を発信した。警報を発信したところで防衛する術はない。危険区域から脱出することしかできないのだ。できるだけ多くの人を脱出させなければならないが、そんな時間もない。

 ジョージ、デビット、ミニョンはトリポリに進軍していた政府軍サイボーグたちを一か所に集めた。そのうえでトリポリに核ミサイルが発射されることを告げた。そしてすぐさま、全員が手をつなぎ輪になった。総勢50人以上だ。お互いが手を組みスカイ・フォーと繋がることで、彼らとともに安全な場所まで転送できるだろう。スカイ・フォーメンバーに出された警報はウィン博士にも届いていた。


 ちょうどその時ついに核ミサイルが発射されてしまった。突然あたりに警報が鳴り響いた。爆心地の特定はトリポリの中心市街地と計算された。ジョージ、デビット、ミニョンたちは目視できる範囲を10回ほど転送を繰り返した。爆心地からできるだけ遠ざかるためである。着弾まで2分ないだろう。さらに転送を繰り返した。幸いなことにシェルターに潜んでいる可能性はあるが、ユリウスに占拠された街の地上では一般市民は見当たらない。彼らにもきっと警報は届いているだろう。

 

 核ミサイルの規模としては、広島に落とされた原爆の数分の一の威力に過ぎない。しかし、爆心地への破壊力と放射能汚染は決して無視できないレベルであることは間違いない。自分の住む街が核攻撃を受けても運よく生き残り、空気中に漂う放射性物質が地上に飛散する数カ月間を生き延びる確率を最も高める方法は、シェルターなど地中深くに避難して待機することだ。核爆発エネルギーの35%は「熱放射」として放出される。熱放射はほぼ光速と同じスピードで移動する。だから爆発が起きてまず最初に襲いかかってくるのは、眩いばかりの光と熱だ。その光はあまりの眩さで数分は視力が失われるほど強烈だ。これを「フラッシュ・ブラインドネス」という。もし1メガトン級の核爆弾が使用されたら(広島型原爆の80倍に当たるが、現代の大抵の核兵器よりずっと小型である)、このサイズの核爆弾が爆発した場合、晴れた日なら20km内の人はフラッシュ・ブラインドネスに陥る。もし晴れた日の夜ならば、その範囲は90kmにまで及ぶ。

 

 転送を繰り返した彼らは爆心地から10㎞以上は離れていた。発射された核ミサイルは広島に落とされた原爆の数分の一であるが、爆心地から10㎞離れていても確認できるだろう。いよいよその時がやってきた。

 彼らは全員が、一瞬爆心地と思われる方角を凝視していた。夕陽に映える晴れた空、雲一つない澄んだ青空の裾に広がる夕焼けを背景に閃光を探していた。平和な時間が流れていた時期なら、縦横無尽に整然と流れている大小のドローンが無数に確認できる。しかし、そのドローンは一切確認できなかった。そして、ミサイルの着弾を知らせる閃光も衝撃波もない。その代わりに眼に飛び込んできたものがあった・・・


…続く。

 

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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