父との会話

 気がつくと私は父に電話していた。

「ハロー、ロージー」

父はいつもすぐに出ててくれる。

「私・・・やりたい仕事が全然見つからないのよ」

「子供の時、何になりたかったかを思い出してごらんよ。周りの意見を聞くことは大切だけど、他人の価値観を基準にして仕事を決めると、自分が本当にやりたい仕事ではなかった!と後悔してしまうかも知れないので、お父さんは何も言わないよ」


 私はもうすぐ20歳になる。大学を卒業前には就職活動が始まる。やりたい仕事が決まっている親しい友人たちが多くいるので焦っていた。そもそも就活の軸が見つけられない。そこへ弟のアンディがやってきた。

「お姉ちゃん、何話してるの?」

「あんたには関係ないこと」

アンディが割り込んできた。

「お父さん今日ロボットを作ってるんだよ!後で見せるね」

「ちょっと邪魔しないでよ、大事な話してるんだから」

「まぁまぁ、ケンカしないでくれよ。話を戻そう・・・運命は自分で決めるものだ 。人の人生に正解はない、道に迷っても自分を見失わないことが大切だ。自分に正直になれば道は自ずと開けるものだよ」

 

 父はいつも優しく接してくれる。


 今の時代、私たちは特定の人物に酷似したボットを作り上げ、いつでも会話を楽しめる。チャットボットの音声は、本人の肉声に近い合成音声で発せられる。これは、録音された本人の音声データから「音声フォント」が作られることによってできるのだ。様々なデバイスに対応しているので、携帯電話、パソコン、パーソナルアシスタント、そして3Dホログラムを使えば本人を前にしているような対話が可能になっている。

 仮に特定の人物の情報を与えるなら、それは疑似的な会話になる。自分のデジタルコピーを後世に残すことも可能だ。さらに有名人、歴史上の人物、架空の人物を作って会話ができる。

 昔は家族が亡くなると写真にして部屋に飾るのが普通であった。今は3Dホログラムなのだ。呼び出せば疑似的な会話ができる。意見を聞き、忠告や戒めを求めたり、先人の知恵に学ぶことができる。亡くなった家族との会話が可能になったのだ。

 私は何かあるといつも父を呼び出していた。3年前に亡くなった父を・・・


写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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