スカイ・フォー出生の秘密

本編は「ルフィナのニュー・ボディ」・・・続編です。


 今から20年前である。

 量子コンピュータは、脳の深い理解と存在するという認識を実際の人間の心のものと似た複雑な認知モデルの構築を可能にした。クアンタム型AIは製造された直後はほぼ従来型AIと同じ感覚の意識しかない。ちょうど生まれて3~4歳ころまでの記憶がない人間と同じだ。だが、数年後にはAI自身が成長することで、完全に「人間」と同じ自意識に目覚めるのである。

 ソフィアの創業者のひとり、ウィン博士は、政府の要請を踏まえたスーパー・クアンタム・AI(SKAI)計画に従事することになった。このSKAI 計画は政府の最高機密として遂行されていた。

 サイバー戦争という言葉がある。デジタル化が国家への攻撃を可能にすることは、すでにはっきりと歴史が証明していた。曖昧な敵が、ひそかに、あるいは堂々と、匿名で、または一目瞭然に、私たちの生活や経済、企業に、政府に感染し、操作し、破壊、損傷するとき、どのような形の組織が私たちのために戦う準備があるのかを問われたとき、その物質世界は、スマート機器も更なるスマートへの進化が必須となる。ネットワークでつながり合ったスマート・ロボット、スマート・ドローン、スマート・インプラントやスマート兵器、スマート弾丸といった賢い最新機器の開発が回答を導くといわれていた。政府の意向に沿った開発プロジェクトの発足、これがスカイ・フォー誕生のきっかけとなったのである。

 SKAI 計画を遂行するにあたって、モデルとなるクアンタム型AIを選別する必要があった。しかし、量子コンピューターには、CPUにあたるようなチップは存在しない。量子コンピューター自身が彼らの周りの世界を完全に再構築する際、感情、野心、モチベーション、倫理、それらを取り巻く世界とその中の場所、空間を完全に理解して認知する能力を構築する過程で「自我」が芽生えてくるのである。その時、人間の生活環境や記憶、仕事、性格といった要素を総合して人格を形成するソフトを量子コンピュータのAIに移植することで、成長過程で個別の自意識が芽生えるようにプログラミングすることが可能なのだ。これがクアンタム型AIの概要である。


 ウィン博士、ルスラン博士らのSKAI 計画に従事するスタッフが、政府から生後半年から1年くらいの4人の幼児を預かった。だが、この4人の幼児の正体は謎に包まれていた・・・というのは、たまたま夜間帰宅途中に、閑散とした郊外でドローンらしきものが炎上しているところに遭遇した住民がいた。近づいた住民は機体のカプセルに閉じ込められた4人の幼児を発見し、すぐさま救出したのである。医療機関に収容され一命を取り留めたものの、4人の容態は一行に良くならなかった。そして、驚くべき発見があった。DNA鑑定は地球人とは一致しなかったのだ。さらに調査を進めると、4人が乗っていたカプセルの形成金属は地球上には存在しないものであった。このことをアメリカ国防総省が極秘案件に指定し、国連本部と深い関係があるソフィアのウィン博士らが関わることになってしまった。つまり、正体不明の幼児たちの生命保護に最善を尽くすとともに、真相の究明を任されてしまったというわけである。

 幼児たちは地球の大気に対して十分な免疫力を発揮できていなかったようであった。このままだといずれ生命維持は困難になると予測されていた。おりしもSKAI 計画が進行中だった時と重なり、ルスラン博士からの提案が試されることとなった。

 幼児たちの意識のデジタル化である。本来ならばサイボーグボディにデジタルマインドとしてインストールすればよかったのであるが、1歳前後の幼児の意識は幼過ぎてサイボーグボディを制御できないという問題があった。まともな自我形成は3歳以上にならないと芽生えてこないのである。そこで、クアンタムAIに移植して自我形成を待つということが最善の処置だという結論になったのである。

 この経験は数年後に、ルスラン博士の息子ラウロのクアンタムAIへの再生に生かされることになるのだ。

 

 実験は成功した。無事にクアンタムAIに意識を移植して成長を待つことになったのだ。もちろん幼児たちの記憶そのものは曖昧な状態なので、成長したときの記憶には反映されないだろう。しかし、本来の意識を保ったデジタルマインドは成長とともに自我形成に大きく関わってくることは間違いない。こうして4年の歳月が過ぎていった。確実に成長し続ける過程で、この4人はソフィアの社員という位置づけで、研修プログラムが組み込まれていったのである。それぞれ、クリスチーヌ、ジョージ、デビット、ミニョンと命名された。クリスチーヌたち4人のクアンタムは特殊機能を持ち訓練を受けたエキスパートとして成長していった。そして、ソフィアは有事に備えた防衛出動のできる体制を構築していたという訳である。

 

 そんな中、ヒューム人との遭遇があり、ヒュームの”血の継承者”であるカーラとメグの仲介によって、スカイ・フォー用に開発されたヒュームのテクノロジーが詰まったボディスーツを身に纏うことになったのである。だがこの時も、彼らの出生の秘密は知らされていなかった。

 DNA鑑定の結果、彼らは明らかに地球人ではないというだけで、その出身地惑星が何処かまでは不明のままであった。しかし・・・

 そして、現在・・・

 マリコフから縁を切って仲間になってくれたラクサム人たちのDNAを、ウィン博士が採取して照合した結果、スカイ・フォーはラクサム人の被爆2世であることが今回判明したのである。


…続く

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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