惑星ドンヴァース脱出
ウィン博士はスカイ・フォーの4人に、スーパー・クアンタム・AI(SKAI)計画についての経緯を詳しく説明した後、おもむろに彼らの出生の秘密を話して聞かせた。ルスラン博士、ラクサム人たち、他のサリームメンバーも同席していた。
ウィン博士は
「君たちに話すタイミングは今しかないと思い、思い切って打ち明けたんだ」
スカイ・フォーのメンバーは突然開示された自分たちの出生の真実に戸惑いを見せていたが、クリスチーヌが
「まず、私たちの命を救っていただいた博士たちに改めてお礼を申し上げたいです。ありがとうございました。私たちは特別なクアンタムだとは思っていましたが、選ばれた理由まではわかりませんでした。人工由来ではなく自然由来であったこと、しかもラクサムの被爆2世であったことは想像つきませんでした」
居合わせていたラクサム人の間にどよめきが起こり、次の瞬間にはスカイ・フォーに対して、親近感のあるまなざしに変わっていった。
ラクサム人のラルスが
「そう言えば、思い出した・・・昔ドンヴァースにいたとき、マリコフに反旗を翻して脱出を試みた人たちがいたことを・・・」
惑星ドンヴァースでは・・・
多くの被爆難民を引き連れてマリコフがやってきたのが惑星ドンヴァースであった。ここには元来穏健な農耕民族が平和に暮らしていた。マリコフに実効支配されている惑星ドンヴァースとは、銀河系の辺境に位置し、初期文明の原住民が住む貧しい星の一つであった。原住民はマリコフたちを”神”として崇めていた。あからさまに見せられる持って生まれた特異体質の能力を、原住民たちは「神の介入」と見なしていた。マインドコントロールやテレパシー、テレキネシス、化身、ミーチャと呼ばれている憑依現象も、原住民にとっては霊的な神の行為と映っていたのである。自らを神格化することで、原住民たちを支配する王朝を築いていた。マリコフにしてみれば、この王朝は結果的に出来上がったものだ。迫害され行き場を失っていた特異体質の難民たちを集めてやってきたのが、この惑星ドンヴァースであった。ここを拠点として、核兵器を使った復讐の機会を模索していたが、いつしか過ぎた年月の経過とともに農耕民族である原住民たちの広大な集落を統治するようになったのだ。
このマリコフが支配する偽りの王朝には、多くの被爆難民が原住民たちとともに暮らしていた。配下の難民たちは総勢400人を超えていたが、全ての難民がマリコフを心から支持していたわけではなかった。受け入れ先の見つからなかった難民の多くは、半ば諦めムードの中、マリコフの用意した仮住まいとしてドンヴァースを受け入れていたのである。
核兵器奪取の有事の際には、特異体質の手練れが優先的に選ばれ現地に赴いていた。難易度の低い後方支援や作戦では、時には素人まがいの熱狂的なマリコフ支持者が加わることもあった。あのラルス親子もその類であった。
惑星ドンヴァースでの生活で、1年が過ぎる頃には被爆難民の夫婦の何組かは2世誕生という喜ばしい節目を経験することになる。しかし、子の行く末を案ずる親の意向は決して安心できるものではなかった。
ある時、子を持つ親たちが4組、密かな計画を話し合っていた。マリコフにはこれ以上ついていけないことは共通の認識で一致していたのだ。そして、マリコフの目を盗み密かにドンヴァース脱出を計画していた。行く先は、ミール第3という惑星。この惑星は銀河通商に加盟していない後進的な文明の星であった。銀河通商に未加盟の星の利点は、銀河系の広大なネットワークから外されていることであらゆる監視の目が届かないことである。隠れ潜むには絶好の星である。4組の夫婦は、マリコフの所有している小型の宇宙船の一つを奪取する計画を実行に移す時を待っていた。
その時がついにやってきた。
幼子たちは宇宙船の緊急避難用カプセルに乗せられて、一路ミール第3惑星を目指して航行を開始した。だが、マリコフらは見逃すことはなかった。すぐに追っ手を差し向けてきた。そして、何度目かのワープ航行を終え、ミール第3惑星の近くまでやってきたが、そこで彼らの宇宙船はマリコフの追っ手の餌食にされてしまった。宇宙船は瀕死の状態であったが、幼子たちを乗せた緊急避難用カプセルだけはミール第3惑星に向けて無事に放たれたのである。
ミール第3惑星とは”地球”のことであった。
0コメント