オファー

本編は「バリーの誘惑」…続編です。


オファー


 翌朝、ジュディはメイを誘ってバリーのいるボディショップにやってきた。

バリーはとびっきりの笑顔で二人を迎えた。店のオーナーも一緒に出迎えてくれた。オーナーは聡明そうな中年女性であった。バリーはオーナーに二人を紹介すると、

「ジュディさん当店をご利用いただきまして誠にありがとうございます」

丁寧にあいさつしてくれた。

バリーは、二人をさっそく奥のリビングルームに案内してくれた。

バリーは二人に飲み物を提供してくれた。

ここで説明しておかなければいけないことがある。サイボーグ・ボディでの活動でも飲食をすることができる。これはヒューマンセンスというテクノロジーが開発されたことによる恩恵である。

 人間が本来持って生まれてきたすべての感覚器官をテクノロジーに凝縮して人工生命体に還元する技術だ。わかりやすく説明すると、視覚、聴覚、嗅覚、痛覚、味覚を司る感覚器官を総合的に統括するテクノロジーのことであり、それを人工生命体で再現するための技術なのである。

 動物の五感の一つである味覚は、食べる食物に応じて認識される感覚だ。この味覚についてもこれまでは食事を必要としないサイボーグには不要の感覚として扱われてきたが、サイボーグたちは元来人間として生きてきたのだから、人間らしさを最も感じることができる感覚の再現が急務として研究開発されてきたいきさつがある。なぜなら、サイボーグ・ボディへの移植に躊躇する多くの人たちが、移植に踏み切れない理由が、この「飲食」からの決別だったのである。多くの人の要望を踏まえ、サイボーグ・ボディへの移植を商業レベルにまで引き上げるためにはヒューマンセンスの搭載は必須だったのである。もちろん体内に消化機能も装備してすべてをエネルギーに変換できる。

 バリーは熱心に語り始めた。


「僕は、昨日ジュディに言ったとおりサイボーグだ。でも、ジュディのサイボーグ・ボディとは全く条件が違うんだ」

メイが

「どういう事?」

「つまり、こういう事だ。僕は幼いころスクール・エアカーの事故で瀕死の重症を負った。脳だけが辛うじて生きていた状態だったことは昨日ジュディに話したよね。僕の命を生かす手段はサイボーグ化以外に選択肢はなかった。だから、今、僕には戻るための生身の生体がないんだよ。ジュディにはいつでも戻れる生体がある。ここが大きな違いさ。分かりやすく言うと・・・」

バリーは二人の顔の表情を慎重に覗いながら続けた。

「法的解釈の違いなんだ」

 サイボーグは人間の意識を電子化して人工のボディにインストールしているだけなので、例えば、軍事用サイボーグの体が破損されても、その意識を別の人工ボディにインストールすることも出来てしまう。「死」とはほぼ無縁なのがサイボーグである。

だが、政府は過去において、法整備を敢行してサイボーグへの制約を課していた。

 彼に限らずサイボーグと呼べる人々は事実上「不死」を獲得している。テクノロジーが常に更新されて生命維持に貢献している。もちろん生身の人間の寿命も150歳に達していた。寿命が尽きる前にサイボーグとして生きていくという選択肢もある。だがそれには大きな違いがあった。サイボーグには、2種類の管理体制が敷かれていたのである。

「ジュディのように、生身の人間がボディショップなどで代替えボディを用意して活動する場合を2型サイボーグという、もう一つは生体を失い完全にサイボーグとしての活動を余儀なくされた環境で生きている者を1型サイボーグというんだ。ジュディは人間としての権利を保有したままサイボーク活動ができるんだ。生身の生体を持っているからね。そして、いつでも生身の人間に戻ることができる。それに対して、僕のように完全なサイボーグ活動を余儀なくされている1型サイボーグは、人間としての権利は剥奪され、サイボーグとしての制約が常に纏いついている。ナノテクノロジーがサイボーグの身体能力を制御しているんだ。つまり常に人間の管理下に置かれる身なのさ。”永遠の命”の代償は大きいということだよ」

ジュディがナノテクノロジーについて質問した。

「僕の身体はナノポッドが制御している。ナノポッドというのはサイボーグの体内に注入されたバイオテクノロジーだ。僕のようなサイボーグは体内にナノポッドを注入され、身体能力を制御している。他人に対して暴力的な行為を行おうとすると、ナノポッドが発動して自分の身体に苦痛を与えるように仕掛けられているんだ。つまり常に人間の管理下に置かれる身なのさ。だから人間たちに意見することはできても、最終的には従わざるを得ないってことだ。これはサイボーグの暴走を想定している。人間は、まともに戦えば身体能力では遥かに上を行くサイボーグに勝てないのだからね・・・」


バリーはジュディの顔色をうかがうように見ると、

「心配しなくてもジュディのボディーにはナノポッドは注入されていないよ」

メイが

「何だかすごい話になってきたね」

「そうなんだよ!・・・そこでジュディにお願いがあるんだ・・・ぼくの仕事を手伝ってくれないか?」


…続く

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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