博士の挑戦とは?

本編は「コンプレックス」…続編です。


博士の挑戦とは?

 

 サーシャは博士の熱心なアドバイスを聞いて少しずつ自信を取り戻していた。その2日後の休日、サーシャが街中の公園内をウォーキングしていると、右手方向からボールを追いかけてきた少年が見えた。ボールの勢いは止まず、公園内の遊歩道に飛び出そうとしていた。その遊歩道の先には、ヘルメットをつけてホバーボードに乗った若者が近づいてきた。


 サーシャはとっさの判断で、ぶつかりそうになった少年とホバーボードの間に入り、少年を抱きかかえてその場からジャンプした。その時、彼女はとんでもないジャンプを見せたのだ。普通人にはない脚力のおかげであった。


「お姉ちゃん・・・ありがとう!」

少年はお礼を言った。

「凄いジャンプだったね」

急停止したホバーボードの若者も目を丸くしてサーシャのジャンプに感心した。

サーシャは

「・・・私、手足が義肢なのよ。これくらいはどぉってことないわ。それより、僕、気を付けてね。無事でよかった!」


サーシャは妙にすがすがしい気持ちに満たされている自分に気が付いた。今までの自分だったら、絶対に躊躇してただろう。


 翌日サーシャは博士の研究所を訪れていた。博士はある実験に没頭していた。そして彼はついに、その実験の最終段階を迎えていたのである。


 それは、自分の意識をインターネットに接続することだった。


「私はついに自分の意識をインターネットに接続することに成功したよ」

彼は両手を広げて満面の笑顔を浮かべながら話し始めた。

「これで、世界中の情報が・・・あらゆる情報が私のもとに集まってくる。今までのような”検索”は必要ない。ただ意識するだけで、必要な情報が私のところに集まってくるんだよ」


彼は有頂天になっていた。


「これで望む情報はすべて手に入る。私はこれから挑戦したいことが山ほどあるんだよ。でも、必要な情報が私に教えてくれるだろう・・・何をすべきかを」


ライザー博士はその日以来ひとりで研究室に閉じこもってしまった。サーシャを含めて研究室の助手たちは、皆博士がいったい何をやろうとしているのかはまったく知る由もなかった。


しかし、1か月が過ぎたころ、博士の言動に変化がみられるようになってきた。助手たちは博士の身の心配を始めた。とうとう博士は助手たちが何を聞いても上の空で、”心ここにあらず”という感じになっていた。


博士の身に何が起こっているのだろうか?


”意識をインターネットに接続する”ということの副作用なのだと助手たちは危惧していた。そこで、サーシャたちは、少々強引に博士を囲み、これ以上のインターネット接続をやめるように忠告したのである。


シャルルが

「博士、もうこれ以上インターネット接続をやめたほうがいいのではないですか?僕らは最近の博士の様子に不安を抱いています。インターネット接続を始めてからの博士は、人が変わったように見えます」

「お前たちの言うことをいちいち聞いていられないんだよ、忙しいんだ!」

サーシャが

「何が忙しいのですか?私達もお手伝いしますよ」

博士はしばらく沈黙していたが

「・・・今はまだ話す段階ではない。どいてくれ」


ライザー博士はまったく忠告を受け入れる様子はなかった。そして、サーシャたちの囲みをかき分けるようにして研究室の奥の扉に消えていった。


扉は中からロックがかかり、開けることはできなかった。


…続く

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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