続編〜ジミーとロボット、音の庭へ
午後の日差しが工房の窓から差し込み、木製の床に柔らかな光の帯を落としていた。
ジミーは作業机の引き出しを開け、古びたレコードを一枚取り出す。ラベルには「モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番」と記されている。
ジミーはターンテーブルに針を落とす。
わずかなノイズのあと、澄み切ったピアノの旋律が流れ、室内を包み込む。
オーディオの再生は一部のマニアたちにとって、デジタルよりもアナログ再生に人気があった。いまだにアナログによるレコードの需要があったのだ。レコードはジミーの父親がクラシックファンということもあり、ごく普通に接していた。
アンディーの目のランプが、音の揺らぎに合わせてゆっくりと明滅した。
彼の内部回路では、和声進行の解析と同時に、得体の知れない感覚が生まれていた。
それはまるで、記号では説明できない「懐かしさ」に似ていた。
二人は言葉少なに最後のカデンツァまで耳を澄ませ、曲が終わると、静寂が訪れた。その静けさもまた、一つの音楽のように思えた。
アンディーは心の奥底に、小さな“音の庭”を持ったような気がした。そして、その庭にまた戻ってくることを密かに誓った。
どうやらアナログ再生の音源がアンディーに影響を及ぼしたようだ。同じ曲名のデジタル音源ではアンディーはなんの興味も示さなかった。おそらく・・・アナログ特有の空気間の揺らぎ、耳に聞こえないようなノイズが関係しているのだろう。デジタルよりもアナログ再生に人気があるマニアたちにとっても同じことが起こっているのかもしれない。
その後、アンディーはことあるごとにレコード再生をジミーにせがむようになったが、その分、アンディーの不謹慎な言動はすっかり影をひそめてしまったのだ。
…完
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