ヒューム(共有…続編)

本編は「共有」…続編 です。「共有」はこちらからお読みくださいね。


 ヒュームの生命体を地球に迎え入れたカーラたちは、地球上にはびこっている様々な問題について解決の糸口を見つけようと日々悪戦苦闘していた。ニューロコンピュータを介して単一のグローバルな集合体になることで、地球人とヒューム生命体とのコミュニケーションは今や全く新しいレベルに到達していた。

 カーラたちは地球よりも遥かに高度な文明を有してきたヒュームたちはどのような歴史をたどってきたのか、彼らから学ぶべきものがあるのかを探ろうとしていた。

 人が死ななくなることで、社会に経済的な重荷を増やすという批判は該当しない。高齢者の知識と経験は非常に貴重で、高齢者にとって社会に貢献する機会がより増える。だがその高齢者の知識や経験がアダとなることも少なくない。古い慣習にとらわれ過ぎることだ。そして柔軟性に乏しい思考は進化の妨げになってしまう。少子高齢化は確実に進化のスピードにブレーキをかけていた。地域格差は広がり、独裁体制が横行する国や人種あるいは生身の人間とサイボーグとの差別、宗教による差別は一向に無くならず、そうした社会的不平等を根絶することが急務となっていた。地球は病んでいたのだ。

 

 カーラとメグたちは、より身近な存在として接することができるようにヒュームの代表者たちを元の姿に復元することに成功した。つまり、未知のウイルスに襲われた時、生身の体を切り離し、NCI (ニューロコンピュータインタフェース) の核に彼らが逃げ込む以前の姿を再現した。デジタル化された意識を人工のボディにインストールしたのである。

 身長は1m50cmに満たない小柄な体格だ。人工のボディは彼らから送られたイメージを元につくった。頭髪はなくつるんとし、耳はやや大きく上部先端がとがっていた。目も顔の比率からすると大きい。額と呼べる部分は広い。鼻と口は小さい。手足の指は地球人と同じく5本ずつあった。

 彼らの名は・・・いや彼女らの名はミリューとサーフといった。いや正直言って外見からは男女の区別がつかない。カーラはミリューに尋ねてみた。驚くような答えが帰ってきた。彼らには雌雄の区別がないのだ。中性、つまり男でもあり女でもあるというのだ。彼らは「体外配偶子形成」によって体細胞から配偶子を作ることができる・・・自分の体細胞から精子も卵子も作ることができるということだ。だから男、あるいは女である必要はないのだ。長い進化の過程で雌雄を区別することをなくしたのである。

 

 ある日カーラたちのプロジェクトオフィスに政府からの重大な要請が入ってきた。連日の報道で知ってはいたが、地球は今大変な危機に瀕していた。カーラたちのプロジェクトオフィスの前線は月のルナシティにあったので、地球の喧騒とは切り離されていたのだ。地球では富と権力をほしいままにしてきた国の大統領がいるかと思えば、少数民族問題を抱える国もある。宗教間の小競り合いからテロに発展し大勢の死傷者を出した地域もある。人間とサイボーグとの差別、人権問題に悩む先進国もある。特に独裁者たちの「不死」が深刻化していた。一度築いた地位に執着し続けることだ。こうなったら誰も文句は言えない。「死」を恐れなくなった独裁者たちはますますその横着ぶりを発揮することとなってしまった。一番の問題は核保有国の暴走が止まらないことだ。お互いを罵り合い一歩も譲る気配がない。緊張が頂点に達したら一気に暴発しかねない状況なのだ。

 そんな状況の打開案を政府は求めてきたのだ。ようするにヒュームたちの知恵を借りたいのである。 ヒュームの代表たちは、今やミリューとサーフだけではなく総勢13人のボディ再現が施されていた。

 ヒュームたちもかつては同じような問題を抱えていた時代があった。どのように解決したのかを彼らに尋ねたところ、逆に彼らから質問されてしまった。

ミリューが口を開いた。

「あなた方は『神』を信じていますか?」

地球人の代表として、政府の要人であるノバクが答えた。

「私たちの多くは『神』の存在を『こころ』で感じ、信じておるよ」

「それを聞いて少し安心しました。『神』というものは『こころ』が創り出した隠れ家です。簡単に説明しましょう。何を『神』として崇めるかによっていろいろな宗教が生まれました。宗教は決して強制されるべきものではありません。自由です。信じるも信じないも自由なのです。『こころ』が安らぐことが大切なのです。しかし、多くの人間たちはここをはき違えていました。信じることを強制したのです。排他的信仰の始まりです。私たちヒュームの人間たちもずいぶん前に「死」を克服しました。「死」からの開放で見えてきたものがあります。『神』への信仰心に変化が生じてきました。「神に召される」という言葉があなた方の世界にもあるでしょう。「神の世界に招かれる意味」イコール「死ぬ」ということです。不死という世界では『神』という存在へ近づく方法は「死」という手段では叶わないということです。死ぬことがないので『神』に近づくことはできません。やがて『神』そのものの存在する世界は、人々の 『こころ』のなかであることに気づく結果になりました。そして私たちの世界では、長い年月をかけた末に宗教という概念が消えてしまいました。・・・本当の意味で人々は『こころ』の平和を取り戻したのです」

 ミリューの話は予想だにしなかった内容だったので、その場に居合わせた一同は返す言葉を忘れていた。

 ミリューは構わず話をつづけた。

「もうひとつお話しておきましょう。世界、あるいは国を統治する人間のことです。あなた方には『政治家』という言葉がありますね。政治家というのは、基本的に国や地域において、豊かな社会の実現を目指して「権力」を行使しつつ、経済的、物質的利益をめぐる争点から、生きがいや環境の問題といった「生活の質」あるいはライフ・スタイルの見直しを遂行するための知識に精通した人物である必要があります。

ここで問題になるのが「権力」です。人間である以上そこには「欲」というものが芽生えてきます。「欲」がなければ進歩も新しい発見もありません。でも、行き過ぎた「欲」が問題なのです。行き過ぎた「欲」は、人間を思わぬ方向に引きずり込んでしまいます。最悪の場合独裁者を生んでしまいます。この行き過ぎた「欲」をどのように抑制していくのかが問われます。私たちはこの問いに対して明確な回答を得ることに成功しました・・・」

 

 ここまで話が進んだ時に緊急警報がオフィスに鳴り響いた。地球の国連本部からだ。この種の警報は最大級の緊急事態を示していた。

 ノバクが叫んだ。

「核ミサイルが発射されたんだ!!」

一同その場で凍りついた。


「着弾まで3分しかない。地球は壊滅するぞ!」

ヒュームたちもざわめいた。が、次の瞬間ミリューが口を切った・・・

「私たちに考えがあります。迎撃は不要です」

そういうとヒュームたちは13人全員が机に突っ伏してしまった。彼らの意識はNCI (ニューロコンピュータインタフェース) の核に戻って何かを始めていた。ノバクはカウントダウンを見つめていた。あと2分を切った!カーラたちにはどうすることもできない。祈るしかできないのだ。ヒュームたちはいったい何をしようとしているのか。2分足らずで何ができるのか?

 1分を切った。核弾頭は依然として目的地に向かって無情な飛行を続けていた。カウントダウンは止まらない。そして30秒を切った。ヒュームたちは何をしている?状況は全く変わらない。ついに10秒を切ってしまった。9,8,7,6,5,4,3秒・・・

 2秒・・・1・・・突然核弾頭の姿が消えた。視認できたわけではなかったがカウントダウンは残り1秒のところで止まったのだ。

 ヒュームたちはそれぞれのボディに戻ってきた。

ミリューが・・・

「核弾頭は消滅しました」

カーラは

「ありがとう・・・でも、どうやって・・・」

「簡単に説明しましょう。私たちはウイルスに蔓延した母星を捨て、数光年をジャンプし地球に向かう進路に乗せた小惑星を住みかに地球に近づいていました。途中には進路を妨害するかもしれない不測の事態を想定して「転送機」を装備していました。長距離転送はできませんが、0.3光年未満なら自他ともに転送できます。核弾頭を捕捉して転送すれば済むことですが、転送先で核が爆発拡散すると思わぬ二次被害を誘発しかねませんでした。このことも考慮して、転送途中の時空のひずみの中で爆発するようにカウントダウン残り1秒直後に転送しました。みごとに狙いは的中しましたね」

 なんというテクノロジーだ。すごい!!

 ノバクは国連本部に経緯を報告すると地球の各地からヒュームたちに対して賞賛の嵐が吹き荒れた。

 

…続く



写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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