血の継承者(ヒューム…続編)

 本編は「ヒューム」…続編です。


すべての個人情報を国家が管理し、自由を求める「危険人物」を容赦なく監獄や収容所にぶち込む。軍を出動させ、自由を求める一般市民に容赦なく銃弾を撃ち込み、鎮圧する。犠牲者数は正確にはわからないほどにのぼる。

 一党独裁者の常套手段だ。

 ヒュームたちの遥か過去の歴史上の汚点も同じような光景を記録していた。「体外配偶子形成」を獲得するはるか前、生物学的に雌雄を区別していた時代、黎明期の話だ。もちろんその頃は彼らさえ「不死」であるはずもなかった。文明の基盤がアナログからデジタルに移行する前の話である。地球人類の文明はデジタルが生まれて200年以上たっていたが、いまだアナログ時代を引きずっている。

 核ミサイル騒動から一段落したころである。カーラたちはミリューやサーフとお互いの歴史あるいは古代文明についての情報を交換していた。古代文明といえば、古代エジプト文明、シュメール文明、メソポタミア文明などがその代表格であり、地球では最古の文明に属すと考えられている。

 メグの案内で地球の古代遺跡から発掘された不思議な出土品の数々の映像を見ていた時、サーフが突然驚きの声を上げた。

「もう一度さっきの映像を見せて!見てくださいミリュー、この形」

石盤は高さ20cm×幅30cmほど、黄色味を帯びた石で作られているようだ。石盤に描かれ形は円形で中央の小さな円から七つの方角に放射状に伸びている。その先にそれぞれ形の違う模様がついていた。放射状の長さはまちまちである。

 すると、別々のフロアで地球人スタッフと交流していたヒュームたちが、続々とメグとカーラのもとへ集まり始めた。今や総勢20人以上となった復元ボディのヒュームたちである。ヒュームたちが石盤にただならぬ関心を示していることは間違いない。

 カーラはミリューに尋ねた。

「この石盤は何ですか?」

シャオと名乗るヒュームが答えた。

「これは私たちの母星を含む太陽系のシンボルです。同じものが私たちの古代コレクションの中にあります」

 地球を含む太陽系の惑星は8つある。それに対してヒュームを含む太陽系の惑星は7つである。太陽から地球までの距離は約1億5000万キロ。惑星ヒュームの太陽までの距離も約2億1000万キロである。それぞれの太陽系全体の大きさも非常に酷似している。古代のヒュームたちは一度地球に訪れた可能性が非常に大きいと思われる・・・とシャオは推測していた。古代のヒューム人が地球に来た目的はわからない。その後、ヒュームたちはあわただしさを漂わせていた。妙におちつきが無くなったように見えた。


 そんなある日、カーラを含めた数人のスタッフは新天地に赴く日がやってきた。火星である。人類は2100年に入ってついに火星の都市建設に着手したのだ。火星は当初各国、各分野の研究者たちがスペースコロニーをつくって移住した。その後、地球の先進国が先を争うようにドーム都市を建設していた。そのドーム都市の一角にカーラたちのプロジェクトオフィスが入居したのだ。ヒュームたちは月のオフィスに留まることになり、引き続きメグがヒュームたちのメインアシスタントを務めることが決まっていた。

 カーラはメグやヒュームたちと別れた一抹の寂しさを覚えたが、それを好奇心旺盛の彼女がすぐに忘れる出来事が起こった。それはカーラが火星のグローバルネットワークにアクセスしている時だった。

「・・・カーラ、突然のアクセスを許してください。私はシャリーといいます」

 カーラは相手が何者なのかを疑うことなく理解できた。メグが初めてカーラにアクセスしてきた状況とよく似ている。グローバルネットワークを通してメッセージを届けることで、お互いを瞬時に理解できるのだ。次の瞬間、彼女の目の前にひとりのヒューム人が現れた。

 

 その頃ルナシティにいるメグはミリューたちの不穏な動きを察知していた。ミリューと数人のヒュームたちがメグを含むスタッフを囲んでいた。

「さて・・・メグさん、私たちの行動に疑念を抱いていますね。感が鋭い、流石ですね」

「いったい何をやっていたのですか?」

「驚かないで聞いてください。私たちは先ほどこのルナシティを掌握しました」

ミリューはにんまりとした笑顔を浮かべているように見えた。

スタッフのひとりが、

「何を言っているんです」

「私たちはこのルナシティの機能をつかさどっているグローバルネットワークの心臓部を乗っ取ったということですよ」

「信じられない・・・」

「あなた方のニューロンコンピュータは非常に原始的なるが故に最初手こずりましたが、簡単に制御できるようになりましたよ」

「私たちを騙していたの?目的は何なの?」

メグは務めて落ち着こうとしていた。

「地球をいただくことですね」

ミリューは両手を広げて冷静に答えた。

「くそ~!」

スタッフの一人がミリューに掴みかかろうとした。

と、その時、突然スタッフとミリューの間に割って入ったものがいた。


・・・なんと火星にいるはずのカーラと新たなヒューム人シャリーだ。シャリーたちが宙域に待機している宇宙船から転送されてきたのである。

カーラはすぐさまメグに言い放った。

「脅かしてごめんね、メグ」

そしてシャリーを紹介した。

「こちらはシャリーよ」

すかさずシャリーはミリューたちの身体に「光の環」をはめ込んだ。「光の環」は忽然と現れてミリューたちに纏わりついたのだ。これで彼らは身動きが取れない。もちろんNCI (ニューロコンピュータインタフェース)の核に逃げ込むこともできない。

 

 それを確認して、カーラはメグたちに事の一部始終について、シャリーから聞いたすべてを説明していった。

 

 まず最初、ミリューに向かって

「あなたたちは小惑星が偶然にも地球の太陽系に近づいていたことを知った。地球が母星のヒュームとよく似た環境であることを突き止めて、植民地化したいと計画した。地球にもNCI (ニューロコンピュータインタフェース)が存在することを知りアクセスを試みていた」

次にカーラはメグを見て、

 「ヒューム人は十万年前にも一度地球にやって来てたのよ。目的は同じく地球の植民地化。その時ヒューム星は核戦争のために、惑星の半分が放射能で汚染され人が住むことができなくなっていたの。多くのヒューム人は汚染地帯を逃れて母星に残ったけど、一方ではヒュームを去り新天地を探す宇宙の旅に出た者も多くいたようね。その人たちの宇宙船の一つが古代の地球にたどり着いたというわけ」

そこまで説明した時にメグがカーラに質問した。

「ミリューたちは地球の核ミサイルから救ってくれたよね。とても友好的だったのに・・・」

「実をいうと彼らはヒュームを永久追放された罪人たちだったの。しかも皆テクノロジーに長けた強者ばかり。肉体から切り離された意識はNCI (ニューロコンピュータインタフェース)の核に閉じ込められ、永遠に宇宙をさまよう運命だったの。シャリーはヒューム星宇宙公安部のリーダーよ。ミリューたちを幽閉した小惑星が地球の太陽系近くで行方不明になったことで調査していたところだったんだ・・・地球の核ミサイルから救ってくれた件だけど、自分たちの植民地化する予定の星が放射能で汚染されたくなかったんだね、それにウイルスが蔓延して母星に住めなくなったというのは単なる口実ですよねミリュー・・・そうでしょ?」

ミリューは唇をかみしめたまま微動だにしない。否定はしなかった。


 シャリーの所属する公安部はミリューたちに制御されていたグローバルネットワークの心臓部を修復してくれた。

 

 もうひとつシャリーから重要な話を聞かされた。

 カーラとメグがグローバルネットワークにアクセスしているときだけ同調できた事についての回答は、超古代文明の遺跡から発見された石盤「太陽系のシンボル」が教えてくれた。石盤の裏には『ヒュームの血を受け継ぐものたちへ』と書かれていたのだ。当然ミリューたちも気が付いた。カーラとメグがこのことに気づく前に、地球の植民地化を急ぎだしたのだ。地球にたどり着いて順応した人たちの純粋な子孫がカーラとメグというわけだ。姿かたちが大きく違っていてもDNAがヒューム人と一致する。おなじDNAを持っていればグローバルネットワークにアクセスするとヒュームたちと同調することができるのだ。そして、ヒュームの「血の継承者」として、カーラとメグはシャリーにヒュームへ招待されたのである。

 今度こそ間違いなくヒュームの文化を吸収できるのだ。病む地球が大きく好転できるチャンスかもしれないとカーラは確信した。


…続く

写し屋爺の独り言by慎之介

SFショートショート集・・・《写し屋爺の独り言by慎之介》 写真関係だけではなく、パソコン、クラシック音楽、SF小説…実は私は大学の頃、小説家になりたかったのです(^^♪)趣味の領域を広げていきたいです。ここに掲載のSFショートの作品はそれぞれのエピソードに関連性はありません。長編小説にも挑戦しています。読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。小説以外の記事もよろしく!

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