取 引
最初にカーラが口を切った。
「私たちはマリコフの次元ポータルに吸い込まれてこの次元に来てしまったのよ。望んで来たわけではないの。元の次元に戻してほしくてドーム都市の外界からテレポートして来たんです・・・」
カーラは続けた。
「マリコフは私たちの次元で核兵器を脅しに使っている。そのマリコフを止めるために私たちは戦っているのよ。この次元の世界に悪い影響を及ぼしたくないし、そのつもりもないわ。望みは、このまま元の次元に返してほしいの」
ラッシュがクスクス笑いだした。ひとしきりして笑いを抑えると組んでいた足を組み替えた。組み替えた足から水がしたたり落ちていた。バーチャルとはいえ、まるで現実感たっぷりの映像だ。手を伸ばせば水をすくいとる事も可能のように思えてくる。実際足元の水に触れているつま先には、波打つ水の感触がカーラたちも伝わっていた。ラッシュ自身の姿は、男であったり女であったり老若男女、自由自在におそらく相手によって変わるのだろう。
「タダで帰すわけにはいかない、それは虫が良すぎるというものだ。先ほど、お前たちが”悪い影響を及ぼしたくない”と言ったではないか」
サラが
「どういう事?」
「最近惑星ヴァースを取り巻く宇宙空間で異変が起きている。核爆発だ。どこからともなく核ミサイルが現れ、現れた瞬間に爆発する、という事象が頻発している。よくよく調べたところ、核ミサイルの発出元はお前たちの次元であることが分かったのだ。心当たりがあるだろう!」
デビットが
「もしかしてワープ・ドライブを使った核廃棄が原因かと・・・」
「心当たりがあるようだな」
サイモンが
「ワープ・ドライブで転送の瞬間にできる時空の裂け目の転送先で起爆させる方法だけど、その時空の裂け目というのがこの次元に繋がっているとは思ってもみなかった」
ラッシュが
「すべてこの次元に繋がっているわけではない。マルチバースの何処に繋がるかは予測できない。おそらくお前たちの廃棄した核の一部が我々の次元に到達したのだ。それ以外は他の次元で悪さをしておる。発射された核ミサイルを感知するとすぐさま核の転送準備に入り、時空の裂け目めがけて入った瞬間に起爆させ、自分たちのいる時空には何の影響も残さない・・・というお前たちの開発したテクノロジーは他の次元に少なからず悪影響を及ぼしていることが分かった。これらは宇宙空間でのみ発生している故に、我々は見て見ぬふりをしてきたのだ」
ルフィナが
「そうだとしたら・・・核を廃棄できなくなるよ」
カーラが
「他にいい方法があれば教えてほしいわ」
「それはお前たちが考えることだ。お前たちを帰してやる代わりに直ちにその核廃棄を中止することだ。今後一発でも我々の次元に核が飛来したら、こちらから核をお見舞いすることになる。しかも、宇宙空間ではなく、お前たちの地上に向けた核がダメージを与えることを承知しておくがよい」
カーラが
「分かったわ、必ず約束は守ります」
その時、ルフィナがテレパスでドーム都市の外で待機していたメグたち7人を呼び寄せた。
ラッシュは驚いた素振りもなく突然現れた7人を見て
「マリコフはずいぶん威勢よく暴れている様子だな・・・良かろう、お前たちを帰してやる。忘れるな、お前たちの時間で猶予は24時間与える。24時間以内の着弾は見過ごしてやるが、24時間が過ぎて、我が次元に核が着弾したら盛大に報復する」
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