振り出し
タール砂漠のど真ん中に位置する小さなオアシス・・・マリコフが砂漠の小さな湖の周囲に造った偽装の「憩いの場所 」だ。ここの地下施設でマリコフがワープ・ドライブを製造している。サリームたち全員は核廃棄プロセス中止の現場に立ち会っていたので、シャリーたち宇宙公安部の精鋭数名に、フィオナとリオネル、ルフィナが加わり、マリコフの動向を監視していた。
マリコフはあまりにも強大なサイコパワーを持っているので、次元ポータルを封ずる手立てはない。一つ間違えば異次元に飛ばされてしまう。それを恐れて何人もうかつに手を出せないのである。さすがのシャリーにもどうすることもできない。万が一ワープ・ドライブが作動して核弾頭が転送されてしまうことを想定していたシャリーは、惑星ドンヴァースにも監視の目を光らせていた。マリコフ不在のドンヴァースに宇宙艦隊が集結して包囲網を敷き、マリコフから隔離しようとしていた。
一方、カーラとメグのスーパーツインズは最後の核廃棄現場に来ていた。既に声明は発出済みだが確実に核廃棄プロセスを中止しなければならない。間違っても次元の隙間に核を放棄すれば、最悪の場合地球は核の報復を受けることになる。
ドイツ核施設のコンスタンティン長官に彼女たちは面会していた。
メグが、
「声明はご存じだと思いますが・・・」
コンスタンティン長官が握手を求めてきた。
「もちろん・・・先ほど受け取りました。すでに中止の手筈は整っていますよ。でもなぜ・・・?」
「ありがとう・・・今の核廃棄の方法は他次元にも悪影響を及ぼすことがわかったんです・・・」
カーラがコンスタンティン長官に一連の経緯を説明した。そして核放棄に向けての新たな試みについて意見を求めた。しかし、何処の施設の専門家に聞いても大量の核弾頭を短時間に廃棄処理する方策は見つからなかった。
重要なのは短時間にすべての核弾頭を廃棄することなのだ。なぜなら、何年もかかって核を少しづつ廃棄するのは愚の骨頂に等しい。核廃絶に向けた取り組みは過去にも試されてきたが成功していない。なぜなら、国のトップたちは敵視する周辺国の動向を見据えたうえで常に自国の未来を模索している。時間がたてば対応も変わってくるのだ。経済的駆け引きが優先され、そこに核保有の意味を見出している。短時間にしかも敵対する相手同士の核廃棄を同時にできなければ、お互いに対等性が保てなくなるのである。いったん核廃棄を決めた国が、思想の異なる国の脅威にさらされる事態が発生すれば、核の増強に転ずるシチュエーションはいくらでもあるだろう。
そんなわけで核廃絶のプログラムは振り出しに戻ってしまった。
サリームたちは24時間後にはすべての現場から引き揚げてきた。
カーラたちが全員揃ったところで、ルスラン博士から開口一番、
「シャリーから要請だ!マリコフが動き出した、戻ったらすぐに合流してほしいと・・・」
※ 本編を最初から読みたい方はこちらのリンクをクリックしてくださいね!
0コメント